2021年6月6日午前6時過ぎのことだった。

TikTokであるユーザーによる生配信の撮影が行われていた。

「TikTokの”幽幽の禁断の地へようこそ”をご視聴の皆さん!おはようございます!幽幽です!!TikTokを通してこれから生中継でライブ配信をさせて頂くのは唐津市内にある観音の滝です!!景勝地として非常に有名なこの滝に僕はいます。そして観音の滝の滝面の近くにて生配信をしています。観音の滝は景勝地であると同時に、高さ30m・幅9mで激しく落下する水流から”男滝”とも呼ばれています。なかなか豪快な滝としても知られているので、”日本の滝百選”にも選ばれています。そんな観音の滝から今から滝面に向かって勢いよくダイブをさせて頂きたいと思います!もう思い残すことはありません!29年の人生をどうもありがとうございました!支えてくださったフォロアーの皆様にも感謝の気持ちでいっぱいです!」

幽幽がスマートフォンのカメラを前にして大声で宣言すると、勢いよく流れる滝面に向かってスマートフォンのカメラを持ちライブ配信を続けた状態でダイブした。映像は水流の激しさのあまりに途中で途切れてしまった。

そして、出社時間の9時を過ぎても出勤をしてこない如月優光に、上司の稲見由紀子が心配になり如月の携帯に連絡をするも、”電波の悪いところにいるか電源が入っていないためかかりません”のアナウンスが流れ、繋がらない。

「今まで無断出勤なんてしたことがないのにどうしたんだろう?」

稲見が気になって致し方がなかった。

同僚で仲の良かった徳川航星に稲見が声をかける。

「徳川君。如月君が行きそうな場所って心当たりある?」

稲見から聞かれた徳川は、「優光なら、近くのうどん屋に行くとか、うーん特に思いつく場所って言うのが無いんですよね。あいつは、TikTokで動画を配信するのが大好きでよく佐賀県内のデマかもしれない心霊スポットによく一人で行ってはライブ配信するのが趣味でしたからね。TikTokのアカウントの”幽幽”って検索したら出てくると思いますよ。幽という漢字は幽霊の幽で2文字続きです。」と稲見に話しかけた。

徳川の話を聞いた稲見が「TikTokに何らかの痕跡が残っているのならば、それを探るしかないね。」といってスマートフォンにあるTikTokのアプリから”幽幽”のアカウントを探し始める。

稲見が”幽幽”のアカウントを見つけ出し、徳川に「これが如月君のTikTokのアカウントなの?」と話すと、プロフィール画像に使われているミニブタの画像を見た徳川は、「あいつのアカウントかと思います。ミニブタはあいつの家で飼っているミルキーだと思います。」と話すと、早速二人で如月が配信してきた動画を見ていくと、本日に生配信されたばかりの動画を見て困惑するのだった。

稲見が「観音の滝、配信された日付ってこれ今日じゃない!ここに行ったのかもしれない。」と徳川に話しかけると、徳川は配信された動画を再生し始めた。


配信された動画を二人で見て愕然とした。

如月が観音の滝の滝面に向かってダイブしていく様子が生配信されていたからだった。徳川が「稲見部長、これは通報するべきです。」と話すと、その間に如月の母親の美智子から会社に連絡が入ってきた。TikTokのライブ動画を見た一部の人が気になり、7時過ぎに唐津署に通報の一報があったそうだ。救急隊の救助も虚しく、如月の遺体が先程滝壺の下から引き揚げられたそうだ。

如月の母・如月美智子が会社に電話をした後、朝の11時過ぎに受付に現れると、研究所があるB棟に足を運んでくれた。

美智子が入ってきたと同時に、徳川が「この度はご愁傷様です。」と話しかけると、美智子は「今まで息子の優光がお世話になりました。悩んでいた形跡などは今まで見受けられなかったのですが、この度このような形でお世話になっていたフェニックス・マテリアルさんに出向いてご挨拶をするという流れになりました。3年間、息子をとても可愛がってまた厳しくご指導をして頂きありがとうございました。」と深々と頭を下げてお辞儀をすると、稲見は「お母様、そんなことをしなくても大丈夫です。こちらも如月君のおかげもあってプロジェクトも少しずつですがいい方向へと向かっていく矢先の出来事でした。わたしも、お母様に何と話していいのやら、言葉が出てきません。」と話し、言葉を詰まらせた。

その様子を見ていた徳川が、憔悴しきっている美智子の様子を見ているのが辛かった。

何を話せばいいのかと思い悩んだ結果、「お母様、こんなことをいって場違いだと思いますが、お通夜や告別式の日程などはお決まりでしょうか?」と聞いてみることにした。

ショックのあまりに顔が青ざめている徳川の様子を察知した美智子は、「通夜・告別式は近親者のみで執り行います。自殺ですから、家族だけでしたいんです。」と話すと、稲見はその様子を見て「徳川君、何聞いているのよ!当たり前に決まっているじゃない!もう少し気を遣うべきよ!」と思わず注意をするのだった。

徳川がその言葉を聞き、「部長、僕だって辛いんです。あいつが自殺をするような奴だとは僕は思えません。昨日の晩まで二人で一緒に晩飯を食べたばかりですよ。困った様子などなく、ゲームのアプリの”妄想彼女”であいつがゲームの中で可愛がっている詩織ちゃんの話をしていましたから。」と話すと、美智子はそれを聞くと「優光から話は伺っていました。よく話す友達がいるとは聞いていましたが、それはあなたのことだったんですね。」と話すと、徳川は「はい。そうです。あいつとはよく遊びに行ったりする仲です。最近は夏の盆休みはどこで過ごそうかと二人で話していました。今年の夏は長期休暇が取れそうだから、二人でどこか北海道の離島にでも行こうかだなんて話をしていたところでした。」と話した。

美智子がそれを聞くと、「優光と、そうだったんですね。」と呟くような口調で話した後、徳川を通夜・告別式に招待するという話になっていく。

「優光の最期の姿をみたのは、他でもない。徳川君ですから。優光が天国に逝く姿を見届けてほしい。」

そう言われた徳川は「はい。参加させて頂きたいと思います。僕だからこそ話が出来ることを話したいと思います。」と話した後、美智子は徳川の連絡先を聞き、通夜と告別式の日程は決まり次第連絡をする流れになっていった。

午後の19時を回り、徳川が退社をしようと会社から出た時だった。

美智子から徳川の携帯に電話がかかってきて、通夜が6月8日の夜19時から、告別式は6月9日の朝10時から執り行われることになった。

徳川が通夜にも告別式にも参加をすることにして、美智子に了承の返事をした。


その後インターネットを通しての負の連鎖が後を絶たなかった。

TikTokの生配信を見たユーザーの一部が、如月が勢いよく飛び込む動画をYouTubeやニコニコ動画に動画が拡散されると瞬く間に、観音の滝の滝面へライブ配信をしながら飛び込む自殺者が相次いだ。あまりにも続くため、滝面へと入る道は制限がされるも、それでも滝壺のほうに向かってダイブする様子がTikTokで配信されると、ダイブしたユーザーが滝壺の下で無惨な状態で発見されるなどが相次いだ。

あまりにも自殺者が後を絶たなくなり、観音の滝には自殺対策として看板が設けられた。”命は親から頂いたものです。絶対に自殺をしてはいけません。”

さらに対策としてブルーライトによる対策も施されたがそれでも後を絶たない。

経済難ゆえに、この世の中に対して嫌気がさしてきた若者が如月の動画を見て誘発され、後を追うように自殺する様子をYouTubeやニコニコ動画で生配信されていくのだった。中には県外から関係のない見帰りの滝でInstagramのストーリーで面白半分で動画を投稿しながら滝面へと飛び込み死亡するケースもあった。

世間が観音の滝を”自殺の名所”だと少しずつだが言われるようになってきた。