2021年7月3日土曜日の朝。佐賀県の多久市内の町外れにある、5LDKの中古の賃貸の一軒家に引っ越してきたばかりの荻窪一家は、朝から忙しく引っ越しの準備にバタバタと追われていた。

「ハアハア、中古の賃貸の一軒家をラッキーなことに見つけたのは良いのだが、何だよ!前の住人のゴミやら散らかり放題じゃないか。これじゃあ、うちの家具なんか、これから先に片付けないと入れられないじゃないか!!」

一家の主である、荻窪隆治は憤っていた。

妻の美篶は、「まあ、大家さんがお婆ちゃんだったから、しょうがない。一人でこんな大きな家を掃除するのは無理だったのかなあ?」と話をするも、隆治は「自分で掃除が出来ないぐらいなら、清掃業者に頼むのが筋だろ。それすらしていないって一体どういう神経なんだ!?まあ、こんなに広い家なのに、家賃7万ってのも、破格過ぎるといえば、破格過ぎる。俺達が越してこなくても、直ぐに決まるはずなのに、何で俺達がここと正式に契約するまでの間、問い合わせとかは果たしてあったのだろうか。事前に見ておくべきだったんだろうが、あまりにも気味が悪い。」と言い始めた。

美篶は、「あなたが、勝手に決めるからよ。“これは競争だ!早いもの勝ちだ!!”って、見てから判断すべきだって、忠告したのに聞かなかったじゃない。」と夫を咎めた。

隆治は黙り込み、「そうだったな。冷静に考えるべきだったな。」と呟くような口調で話し始めると、「ここに住むと決めた以上、片付けていくしかない。」と美篶に言い出し、2人で前の住人が残した生活ゴミやら生活家具などを捨て始めた。あまりにも清掃がなされていなかったため、部屋や玄関脇のウッドデッキの一部がゴミ屋敷になっており、ゴキブリのみならず、ドブネズミやら、野良猫やらが多数出てきて、「汚いにも程があるだろ!」と思えるものだった。

美篶は後ろで様子を伺っていた小学4年生の長男聖夜と、小学1年生の次男賢斗に「聖夜!堅斗!そこでじっとしていないで手伝えることがあるでしょう!!ゴミ出しぐらい手伝いなさい!!」と指示を出すと、聖夜と堅斗は口を揃えて「はーい。」といって動き出すと、末っ子で今年3歳になる長女の伶菜には「伶菜はじっとしていて。勝手にどこか行っちゃ駄目だよ。」といって注意をすると伶菜は「はーい。ママ。」といってじっと大人しくするのだった。

「伶菜ちゃんはお利口さんだな。あと少しでごみを外に出す作業が終わりそうだからもう少し待っていてね。ごめんね。」と隆治が伶菜に対して言うと、「ううん。パパ大丈夫。気にしていないよ。」と言ってくれるのだった。伶菜に対して親バカすぎる隆治は、「伶菜ちゃんったら本当に可愛くって可愛くってしょうがないんだからあ。」といって思わず伶菜がじっと大人しく座っているところに近寄ると、思いっきり頬ずりをするのだった。「パパ、お髭の部分が痛いよ。」と言われながらも伶菜への溺愛は続く。

片付け始めてから2時間が経過した。

やっと前の住人が捨てたであろう生活ごみや、残していったであろう生活家具を、業者を呼んで処分をすることにしたのだった。

「はあ~。この処分費用でさえも馬鹿にならないぞ。こんなもんだって本来なら大家がすべきことだろ。なんで新しく越してきた俺たちがしなければいけないのか、本当納得できないところはあるんだけど。明日大家にでも会って、せめてこの前の住人が清掃していなかった分の清掃費用ぐらいは負担してくれよう交渉するしかない。俺が昇格で佐賀に転勤することになったから、遥々宮崎の串間市から引っ越してきたっていうのに、新居がこんなゴミ屋敷でしかも俺たちが掃除もしなければいけないってのも、どう考えてもお門違いな話だからな。明日不動産に行って相談するよ。」と隆治は美篶に切り出した。

美篶はその話を聞き、「ええ、そうね。一体どうすればこんな汚い家になるのか、不思議で不思議でしょうがない。だからこその破格物件だったのかもしれないけど、あまりにもこの点の説明が不十分過ぎる。家賃6万円でもいいぐらいだと思う。」と話すと、「久しぶりに、ドブネズミだ野良猫だ、その上あんな立派なサイズのゴキブリなんて俺は飲食店でバイトをしていた時以来に見た事がないぐらい、一体どうしたらあんな成長するのか、餌(=ゴミ)があれだけ豊富にあればそりゃあ寄ってくるよな。野良犬がいなかったのが救いってところだろうか。」と隆治が言い出すと、美篶は「野良犬っていったいいつの時代の話よ。」といって突っ込むのだった。

ゴミ出しなどが終えた後、早速レンタカーで借りてきた5tトラックに積んできた家具などを運び出す作業に隆治と美篶、そして聖夜と堅斗の4人で力を合わせて運び出すと、ゴミの片づけからようやく解放されたのは、到着してから6時間も経過したころの事だった。

「はぁ~こんなにも動くなんて何年ぶりの事だろう。明日が土曜日で良かった、平日だったら間違いなく倒れているかもしれないなあ~。」

新しく引っ越してきた家の中で家族団欒で、出前の宅配ピザを注文した。

「マルゲリータに、ボスカイオラ、クワットロ・フォルマッジ、ビスマルク、どのピザも宅配で食べれるレベルとは思えないぐらい美味しい!」

美篶が美味しそうに食べる一方で子供たちは退屈だった。

「コーンやソーセージがのったピザが食べたかった。ママの好きな物ばかり。」

聖夜が思わず口を出すと堅斗も思わず「食べたいって思えるものじゃない。」って言い出すと、美篶はそれを聞き「好き嫌い言わずに、トマトやバジル、お野菜はしっかりと食べるのよ!そうじゃないと(隆治を見て)こんな家にしか住まわせてもらえない大人になるよ!!」というと子供たちは渋々「はーい。」と返事して食べるのだった。

隆治が思わず「何?こんな家にって元々ゴミ屋敷にしていたのは言っておくけど俺のせいじゃないからな!!」と静かに反論するのだった。

そして子供たちは夜の21時に寝かせつけると、隆治と美篶は22時には就寝した。

明くる日に改めて不動産屋と話をするため、賃貸契約を締結した杵島郡白石町にある鈴村不動産へと夫婦で向かうことにしたのだった。