
作品番号 1649822
最終更新 2021/10/12
ねぇ、覚えていますか? あなた、わたしのことを。
覚えていない? そうか。そうですよね。
それでは。改めて。
はじめまして。わたしは××××と言います。
なんて、のっけから伏字では、なにがなんだかよくわかりませんよね。
ふふ、きっとあなたは思いっきりきょとんとした顔でわたしを見るであろうことは想像がつきます。
わたしは、本当にあなたが小さな頃から、誰よりも近くであなたの成長を見守り続けていたのですよ。おそらく、あなたのご家族よりも、もっともっと、もっと近くで。
……こんな言い方では、なお一層あなたに警戒されてしまいますね。
それでは、こういう言い方をしたら、あなたは思い出してくれるでしょうか、わたしのことを。
平たく言えば、あなたはかつてわたしを捨てたのです。
大きな油とり紙のように妙につるりとした、役所の書類の中に。
……思い出してくれましたか?
そう。
わたしはかつて、あなたの「名前」だったモノです。
ふふ、「捨てた」なんて、流石に少し平たく言い過ぎましたでしょうか。不快にさせてしまったのなら、ごめんなさい。
- あらすじ
- あなたがわたしを忘れること。
二度と、わたしを迎えに来ないこと。
それがあなたの幸せを証明することだと、わたしは知っています。
だからこそ、わたしは選びました。今日、この場で眠りにつくことを。
あなたをいちばん近くで見守ってきたわたしからの、これが最後のプレゼントです。