ハルさんとの約束の日になった。待ち合わせ場所の百貨店の前まで行くと、ハルさんは先に来ていて、私の姿を見て手を振った。
 待ち合わせ時間に少し遅れてしまった私は、ハルさんの元へ駆け寄ると、

「ごめんなさい! お待たせしちゃって……」

 と頭を下げた。
 遅刻の理由は、出かける時に、クロが、自分もついていくと言い張ったからだ。それを押しとどめているうちに時間が経ってしまい、慌てて家を飛び出して来たものの、やはり遅れてしまった。
 申し訳ない気持ちでいると、

「いいよ。来てくれて嬉しい」

 ハルさんは私の遅刻に怒るでもなく笑顔を見せた。

「じゃあ、行こっか」

「今日はどこへ行くんですか?」

 優しいハルさんに感謝しながら、わくわくした気持ちで尋ねる。

「まずは映画を見てから、祇園に抹茶パフェを食べに行こうと思うんだ」

「映画ですか?」

「うん。今、面白いアニメ映画をやっているんだよ」

 アニメはあまり見ないので、ピンとこない。すると、ハルさんは「きっとカノンちゃんも面白いと思うよ」と笑った。

 四条通から新京極通のアーケードに入り、三条通に向かって歩くと、シネコンが見えてきた。

「この映画館初めて」

「映画、見に来ないの?」

 目を丸くしたハルさんに「うん」と頷いて見せる。

「テレビ放映されているものは、時々、見ますけど……」

「じゃあ、余計に楽しみだね。チケット買ってくるよ。ここで待っていて」

 ハルさんは私のそばから一旦離れると、チケットを手に、すぐに戻ってきた。シアターはチケット売り場のある北館ではなく、南館だったので、一度建物の外に出て、南館へと向かう。エスカレーターを昇り、指定されたシアターに入ると、私は「わぁ!」と歓声を上げた。

「映画館ってこんな感じなんですね。スクリーン、大きい!」

 はしゃいでいると、ハルさんが、

「新鮮な反応するなぁ」

 と笑った。
 指定席へと座り、しばらくして、映画上映が始まった。物語は、京都を舞台にしたSF作品だ。少し設定が難しかったものの、リアルに描かれた京都の町と、主人公たちの恋愛模様が素敵だった。

「面白かった~! ラストシーンで感動して、ちょっと泣きそうになりました」

 両手を組んで感想を述べると、ハルさんは「楽しんでくれて良かった」と嬉しそうな顔をした。

 それから、祇園へと移動し、有名なお茶の専門店が営んでいるカフェで、抹茶パフェを食べた。お茶の味が効いたアイスが美味しく、量もそれほど多くはなかったのでぺろりと完食した。

「さて、次はどこに行くのだろう」と思ったら、ハルさんは今度は、昔ながらの純喫茶に連れて行ってくれた。本当に、スイーツの梯子をするつもりのようだ。純喫茶では宝石のようにカラフルなゼリーポンチを食べた。そして次はコーヒーショップへ。スフレケーキはふわふわで美味しかったが、さすがに三店舗目になるとお腹が苦しくなり、私は、

「ハルさん、私、もう食べられないです……」

 四店舗目に向かおうとしているハルさんを止めた。

「そう? 俺はまだいけるけどなぁ」

「ハルさん、意外と大食いですね」

「あはは。じゃあ、腹ごなしに、鴨川でも歩こうか」

「はい!」

 二人連れだって、鴨川の河川敷へと下りる。今日は天気もいいので、たくさんの人が座っていた。カップルが多く、不思議とその距離は等間隔だ。隣の人と一番離れた場所に座ろうとするから、等間隔になっていくのだろう。
 私とハルさんは風景を眺めながら、ぶらぶらと歩いた。

「どうだった? 今日の悪いこと」

 ハルさんが悪戯っぽく問いかけてきたので、

「あんなに甘いものを連続して食べたことがないから、楽しかったです! クロとカフェに行くこともありますけど、ケーキを一つ食べるぐらいですし」

 と、笑顔で返す。クロは甘いものをあまり食べないので、二人でカフェに入った時は、いつも私だけがスイーツを食べるのだ。

「クロと一緒だと、できない体験でした」

「そっか。カノンちゃんが楽しんでくれて良かった。また行こうね」

 ハルさんの誘いの言葉に、胸の中がぽうっとあたたかくなる。

(友達っていいなぁ……)

 しみじみと嬉しさを噛みしめていると、ハルさんが、ふと思いついたというように、

「そういえば前から気になっていたんだけど、カノンちゃんとクロさんって、恋人同士なの?」

 と尋ねてきて、私は目を丸くした。

「恋人? 違いますよ! 私とクロは、兄妹みたいなものです」

「兄妹? そうだったんだ。あんまり似てないね」

「血が繋がっていませんから」

「あれっ? もしかして、何か複雑な話? 聞かないほうがいい?」

「別に隠すようなことでもないですよ」

 私が自分の身の上とクロとの関係を説明すると、ハルさんは驚いた様子だった。

「二人共、大変だったんだね」

「大変? うーん……大変と言えばそうかもしれないけど、私はクロがいてくれたから、今はもう大丈夫ですよ」

(いじめられていた時はつらかったけど、クロがそばにいてくれたから、乗り越えられた)

「クロは私にとって、とても大切な兄です」

 私の言葉に、ハルさんは微笑み、

「兄ね……。本当にそうなのかな?」

 と言った。

「……?」

 その意味が分からず、首を傾げる。そんな私を見て、ハルさんは、

「無自覚かぁ。クロさんも大変だなぁ」

 と、苦笑をした。