目を覚ますと、カーテンの隙間から、まだ夜が明けきらない、仄かな朝の光が差し込んでいた。
 寝返りを打ち、ベッドサイドの時計を見ると、時刻は朝の五時半。

(今朝は、いつもの時間に目が覚めましたね……)

 私は体を起こすと、ベッドから立ち上がった。窓辺に向かい、カーテンを開ける。
 ここ最近、カノンは夢見が悪いらしく、夜中に目が覚めてしまう彼女が再び寝付くまで、そばについていることが多かった。そんな日は少し寝不足になり、起きる時間も遅くなっていたのだが……。

(昨夜は、カノンは来ませんでしたね。よく眠れたということでしょうか)

 良かったと思う反面、寂しいと思ってしまう自分に苦笑する。

「さて。今朝は早く目が覚めたことですし、腕によりをかけて朝食を作りましょうか」

 私はひとりごとを言うと、寝間着から服に着替え、自室を出た。


「おはよう。クロ」

 まだ眠たそうなカノンが起きて来たのは、八時過ぎ。

「おはようございます」

 ダイニングテーブルでタンポポコーヒーを飲みながら読書をしていた私は、目をこするカノンを振り返った。

「クロは今日も早く起きたの?」

「はい。五時半に」

「相変わらず早いなぁ」

 感心と呆れが半々といった様子のカノンに、

「朝食を用意しますね」

 と微笑みかけ、キッチンへと向かう。
 用意していたサンドイッチと、冷蔵庫で冷やしていたヴィシソワーズをトレイにのせて、カノンの元へと持って行く。

「あ! サンドイッチ!」

「いつもクロワッサンですが、たまには良いでしょう?」

「うん! 美味しそう!」

 カノンが目をキラキラさせて皿を見つめている。

「たまご。生ハムとルッコラ。ツナマヨネーズ!」

「正解です。どうぞ、召し上がれ。すぐにコーヒーを入れてきます」

 具材を言い当て、満足そうな顔をしているカノンに、食事をすすめる。
 キッチンでタンポポコーヒーを入れ、ダイニングテーブルに戻ると、カノンはサンドイッチに夢中なのか、無心に頬張っていた。

「コーヒーが入りましたよ。どうぞ」

「ありがとう」

「昨夜はよく眠れたようですね」

 向かい側の椅子に腰を下ろし、問いかけると、カノンはふいをつかれたような顔をした。

「どうかしたのですか?」

「う、ううん。なんでもない」

 首を振って、焦ったようにマグカップに口をつけている。

「何でもないという様子ではありませんが。何か理由があるのですか?」

 気になって重ねて尋ねると、カノンは迷うように視線を彷徨わせた後、

「あのね……昨日の夢は、クロの夢じゃなかったから」

 と、答えた。

「私の夢ではなかった? では、どんな夢を見たのです?」

 カノンの悪夢は、私がどこかへ行ってしまう夢。彼女を苦しませているとしても、カノンの夢に自分が現れることをどこかで喜んでいたので、少し寂しく思った。

「……ハルさんの夢」

 カノンの言葉に、息をのむ。

「どうして?」

(他の男の夢なんて)

 つい尖った声になり、慌てて、

「どうしてハルさんの夢を見たのですか?」

 柔らかい口調へと戻す。

「実はね……昨日、ハルさんに、遊びに行こうって誘われたの。そうしたら、それが楽しみで、夢に見ちゃった」

 恥ずかしそうなカノンを見て、胸の中に黒い靄が広がった。

「そう……なのですね」

「約束はまだ先なのに、気が早いよね」

 苦笑をした後、カノンはサンドイッチを口に運んだ。
 ハルさんはカノンに好意を持っているのだろうか。カノンはどうなのだろう。
 そう思うとやるせない気持ちになり、私は顔を曇らせた。