「やっほー、カノンちゃん」

 梅雨の合間の、貴重な晴れの日。今日は『ウィッチガーデン』の定休日。
 神戸市営地下鉄『新神戸駅』の地下改札の前で、私はハルさんと待ち合わせをしていた。 

「わあ! カノンちゃん。今日の服、可愛いね。白いワンピース。これからハーブ園に行くには、ぴったりの格好だね」

 ハルさんが開口一番褒めてくれたので、私は照れくさくなって、

「ありがとうございます」

 と、はにかみながらお礼を言った。
 かくいうハルさんはダメージデニムにTシャツ、リュックと、カジュアルな服装だ。
 ハルさんは、私の隣にいるクロに視線を向けると、

「こんにちは。クロさん。クロさんもわざわざ来てくれたんだ」

 と、少し驚いた顔をした。

「カノン一人に遠出をさせられませんからね」

「遠出って。神戸だよ。京都の隣の隣だし、俺も付いているし、カノンちゃんも大人なのに。クロさんは過保護だなぁ」

 あははと笑ったハルさんに、クロが苦笑する。
 今日は、ハルさんとクロと一緒に、『神戸布引ハーブ園』という場所へ行く予定だ。
 ハルさんが先日、店に来た時、『ウィッチガーデン』の庭以外で生のハーブを見たことがないと言ったので「それなら一緒にハーブ園に行ってみませんか」と、何気なく誘ったら、ハルさんは大乗り気になり、「行く行く!」と嬉しそうに返事をした。

「ハーブ園にはロープーウェイに乗って行くの。駅はこっち」

 私は二人を先導して歩き出した。

 地下道を通って地上へと上り、ロープーウェイ乗り場に向かう。受付で、ハーブ園とロープーウェイのチケットを購入すると、カプセル型のモダンなゴンドラに案内された。中に乗り込み、私とクロ、向かい側にハルさんという並びで腰をかける。
 ゴンドラは、駅を出ると静かに山の上へと進んで行く。眼下に神戸の街並みが見え、

「きれーい!」

 私は歓声を上げた。

「カノンちゃん、今、下に滝が見えるよ」

 遠方の景色を眺めていると、ハルさんが眼下を指さして声をかけてきた。私は何度か『布引ハーブ園』に来たことがあるので、

「『布引の滝』ですよ、ハルさん」

 とハルさんに教えた。
 
 ロープーウェイは『風の丘中間駅』を通り、さらに上へと昇って行く。十分の空中散歩が終わり『ハーブ園山頂駅』に到着すると、私たちはゴンドラを降りた。

 駅を出ると、ドイツの古城を模した建物が目の前に見え、外国へ来たような錯覚を感じた。この建物は、レストランやカフェ、おみやげ物のショップになっている。私たちはそれぞれに昼食を取ってから待ち合わせたので、そこは素通りして、奥にあるバラ園に向かった。時期が遅く、バラはほとんど咲いていなかったが、

「植物がいっぱいだね。バラも咲いてる。綺麗だ」

 ハルさんは一輪、二輪とわずかに咲いているバラを見て、目を細めた。

「山の上だから、空気も綺麗な気がする。マイナスイオン」

「そうですね」

 楽しそうなハルさんの姿に嬉しくなる。

「もう少し下へ降りると、ハーブが植えられている花壇があるんです。ハーブティーや、精油に使われているハーブも植えられているの」

 隣を歩くハルさんにそう教えると、

「へえ~、そうなんだ。楽しみ」

 ハルさんは私に笑顔を向けた。クロはお喋りをしている私たちの後を見守るようについてくる。