死ななくてよかった。生きる意味を見出せない日々の中、唯一そう思える瞬間があった。それは、学校の行きと帰りのバスの中。一人の女の子の姿を見た時。彼女がいるから、俺は死なずにいられる。何度死にたいと思っても、実際に死のうとしても、その度に頭を過るのは彼女の姿だった。
 彼女のことは何も知らない。話したことすらないのだ。ただ分かるのは、彼女が他校の生徒で、俺と利用するバスが同じだということだけ。それ以外のことは、何も知らない。彼女が俺のことを認識しているかどうかすらも怪しくて。一方的な感情だった。
 一目惚れ、と言われればそうだと思う。彼女の姿を見た瞬間、時間が止まったように感じたから。物静かで大人しそうで、それでいてちゃんと自分を持っていそうなその雰囲気が、とても綺麗だと感じて。今まで味わったことのない胸の鼓動に落ち着かなくなった。
 でも、彼女が俺を見てくれるわけがない。だって、俺は。彼女とは明らかに住む世界が違う人間だから。友達と呼べる人は一人もいなくて、クラスメートからいじめを受けているような情けない男なんて、きっと、絶対、眼中にないだろうし、格好悪い奴だと哀れみの目を向けられるだけ。そんなの俺が耐えられない。
 醜い。虚しい。悔しい。初めての恋をした瞬間から、その恋は脆く崩れ去った。
 それでも、好きな気持ちは止められない。好きで、好きで、どうしようもなく好きで。忘れられない。叶わない恋だと分かっていても、その気持ちを捨てることなんてできなかった。
 死にたい、死にたい。でも。その度に俺の心に現れる彼女に命を救われて。俺はずっと死ねずにいた。一目惚れした彼女に、細い命の糸を繋いでもらっていた。
 彼女がいるから、俺は生きていける。彼女は俺の、生きる糧だ。とても重い感情だけど、どうか、どうか、これからも無事に生きていてほしい。自分が誰かの生きる希望になっていることを、どうか、どうか、知っていてほしい。