重たい足取りで校舎に入り、俯きがちのまま自教室へと向かった。緊張と恐怖に喉が渇き、胸の苦しさに上手く息ができなくなる。ああ、今日も、楽な呼吸の仕方が分からない。まるで大きな水槽の中に沈められているみたいだ。深く、深く、底の底まで。一体いつになったら抜け出せるのだろう。
 バスの中では、いや、彼女の前では気丈に振る舞っているけど、実際の俺は情けないほど弱いただのいじめられっ子だった。本当の俺を知ったら、彼女は離れていくかもしれない。幻滅して、俺のことを避けるようになるかもしれない。
 嘘を吐き続けることに罪悪感を覚えても、学校でいじめられている事実を告白する覚悟はなかった。彼女といる間だけは、辛いことも苦しいことも、気を抜けば死にたくなるようなことも全部、不思議と忘れられるから。
 安心を求めるように、あの日彼女から受け取った名札に触れる。制服のポケットに忍ばせて、肌身離さず持ち歩いていた。このことを彼女に知られたら引かれてしまうかもしれないけど、バスの中でしかなかなか会うことができない関係のため、少しでも彼女を近くに感じていたくて。彼女の名札は、潰れそうな心の安定剤のようなものだった。
 ゆっくりと深呼吸をして。大丈夫、大丈夫。言い聞かせる。何がどう大丈夫なのかも分からないのに、それで大丈夫だったことなんて一度たりともないのに、何度も何度も、意味もなく何度も何度も、自分に言い聞かせた。
 名札からそっと手を離す。ポケットから出した手が小刻みに震え始めた。こんな格好悪い姿、彼女には絶対に見せられない。見せたくない。
 自教室の前で足を止めて恐る恐る扉を開けると、既に登校しているクラスメート全員がこちらを見た気がした。来た来たとでも言わんばかりの好奇の目、今日もかという呆れたような目、そんな温かみのない冷めた視線は俺を萎縮させるのには十分だった。
 唇を引き結び、誰とも目を合わさずに息を潜めて歩いた。彼らのいる教室は、どこよりも水圧が強く感じる。喉が締め付けられて苦しい。
「おはようございまーす」
 馬鹿にしたような声が聞こえ、顔を持ち上げた瞬間、顔面を中心に冷水が直撃した。液体のそれを防御することも回避することもできず、全身がびしょ濡れになる。ゲラゲラと楽しそうな笑い声が耳につき、心がスーッと冷めていく感覚がした。唇が震える。噛んでも抑えられなかった。
 彼らは水に濡れた俺を突き飛ばし、青いバケツを俺に叩きつけるように投げ捨てた。自分を守るために咄嗟に出た腕に当たる。重みはないとは言え、故意にぶつけられたら痛いものは痛かった。
「うっわー、びしょびしょじゃん」
「その言い方なんかエロくね?」
「はは、女子に向かって言ったらそうかもだけど、此奴男だし」
「つか此奴の机の中にさ、エロ本あったんだけど知ってる?」
「えー、マジで?」
「きもいんだけど」
「此奴どんなのが趣味なわけ?」
「確か、女子高生がパンツ見せてる表紙だった」
「ガチじゃん。ちょっと持ってこいよ」
 机に入れた覚えのないアダルトな本があったという下品な会話に血の気が引いた。買った覚えもないのに。買うはずもないのに。それは俺のものじゃない。違う。
 一人が俺の机に近寄り、中に手を突っ込んで。記憶にない薄い本を取り出した。AV女優の官能的な姿が目に映る。彼が言っていた通り、表紙は女子高生が自らスカートを持ち上げている恥ずかしいそれだった。その情報一つで、俺の机の中に入れられていたものがアダルト雑誌だったことが確定する。
 仕事とは言え、破廉恥な姿を晒すAV女優をそれ以上見ていることなんてできなくて。素早く顔を背けた。体が震える。女子の引き気味の冷たい視線が突き刺さる。俺のものではないことを訴えたいのに、言葉を何一つ吐けなかった。これでは肯定しているようなものだ。吐く息が冷たい。
「お前、これをおかずに抜いてんの?」
 アダルト雑誌を受け取った主犯格の彼が、それを恥ずかしげもなく見せびらかした。頑張っても声を出せない俺は、ふるふると首を左右に振って否定を示す。でも彼はそんなことなど気にも留めていない様子でページを開き、俺の前に突きつけた。そして、最悪な言葉を告げる。
「抜けよ。今ここで。これ見てしたことないなんて嘘だろ」
 死にたい。様々なアングルで撮られた女性の裸体が俺の視界を覆い尽くす中、ただ一言、そう思った。死にたい。
 自慰の強要。自殺の誘導。うんともすんとも、はいともいいえとも言えずに絶望する俺に向かって、ほら、手伝ってやるから、と彼が俺のベルトに手を伸ばした。そうしながら、ついでにあれも飲ませろよ、と周りの人に指示を出す。恐ろしいほどの身の危険を感じ、逃げようとしたところで恰幅のいい生徒に羽交い締めにされた。踠く。抵抗する。ビクともしない。勝てない。力の差は歴然だった。
 徐々にベルトが緩んだ。ズボンを脱がされそうになる。死にたい。口を無理やり開けさせられた。小瓶に入った液体を飲まされる。死にたい。俺にスマホを向ける生徒がいた。動画を撮られている。死にたい。息ができない。死にたい。
 ああ、俺は今、何をされているのだろう。頭がぐらぐらする。目の前が回っている。気持ち悪くて吐きそうだった。死にたい。舌を噛む。死にたい。生きた心地がしなかった。死にたい。
「此奴全部飲んだ?」
「飲んだ飲んだ」
「はは、なら後は勝手にやってくれる」
「飲ませたあれ、効果覿面らしいからすぐに効くんじゃね?」
「即効性いいんだな」
「だってかなり強力なやつだし」
「我慢するなんて無理そう」
「それな。抜いて楽になるしかないよな」
「その瞬間、ちゃんと動画に映せよ」
「もう既に回してるからいつでも大丈夫」
 何を飲まされたのか。その会話で全て察した。それと同時に、全身がガタガタと震え始める。恐ろしかった。強制的に自慰をさせようとする彼らが。笑いながら平気で人をいじめている彼らが。飲まされた液体よりも脅威だった。
 ベルトがだらしなく外されている。それを整えることすらできない。彼らにされるがままで。羞恥心に頭がおかしくなりそうだった。女子の視線が痛い。冷たい。避けられている。見て見ぬふりをされている。名札をくれた彼女がこの場にいないことだけが唯一の救いだった。
 アダルト雑誌を見せつけて俺の気持ちを煽る彼は、にやにやしながら次に起こるであろう事物に心を弾ませていた。それは俺を取り押さえている彼らも同じだった。俺に手を差し伸べてくれる人は誰一人としていない。
 時間だけが無情にも過ぎていき、次第に俺の体に変化が訪れた。心臓が早鐘を打ち始め、体温が急激に上昇し始めたのだ。体や吐く息が熱い。目が濡れる。下半身が落ち着かない。
 意思に反して高揚する体。それを見て嘲笑う彼ら。醜態を晒す俺に向けられるスマホ。地獄だった。
 しないとこの興奮は治まらない。でも、人前でできるわけがない。もし相手を選ぶのなら、女子生徒はたくさんいる。でも、手を出すわけにはいかない。それをしたら最後、付き合ってもない女子を無理やり襲ったなんていう既成事実を作られるだけで。
 何をしても俺の心が死ぬ中、一番ダメージの少ない方法が一つだけ。魔の手を掻い潜ってトイレに駆け込み一人で処理するというものだった。これを理性で抑えられる自信はない。考えている間にも、我慢するのが辛くなっているのだ。効果があり過ぎて怖くなる。
「やっば、効果抜群じゃん」
「羽交い締めにされて興奮してるみたいで笑える」
「それはドM過ぎる」
「此奴めっちゃ体熱くなってんだけど」
「離せ離せ」
「自分で処理させないと」
 乱暴に突き放され、足下がふらついた。ガクンと膝の力が抜ける。動悸が激しく、息が苦しい。全身が異様に熱く、手が勝手に胸元のボタンを外していた。何をしているのだろう。何をされているのだろう。何をしようとしているのだろう。
 楽しそうな笑い声が降ってきたと思ったら、誰かに肩を触られた。瞬間、電気が走るような感覚がして。反射的にその手を払い除けていた。床に座り込んだまま息を荒くさせ、恐る恐る顔を上げる。触ってきた彼が何か企んでいそうな目で俺を見下ろしていた。見下していた。息が漏れて訳が分からなくて。泣きそうになった。
 体が熱くてたまらない。とにかくここから抜け出さなければ。逃げ出さなければ。おかしくなる。おかしくなりたくないから。逃げなければ。離れなければ。更なる醜態をクラスメートの前で晒してしまう。笑われてしまう。
「早く自分でやれよ。じゃないと辛いだけだろ? お前、全身が性感帯になってるみたいだし」
 おまけにこれも見たんだから十分前戯できてるよな。意地悪く告げる彼に、俺のものではない例のアダルト雑誌を投げつけられた。その衝撃すらも興奮を煽るものになっているかのようで。死にたくなる。もう死んでしまいたい。
 無造作に開かれた雑誌の中の女優を見て、足を開き物欲しそうな顔で煽る女優を見て、理性が壊れそうになる。死にたい。治まれ。死にたい。落ち着け。死にたい。誰か。死にたい。助けて。死にたい。楽になりたい。死にたい。
 頭がふわふわして、性欲が治まらなくて、唾液が溢れてきた。口元を拭う。嫌な汗も止まらない。下半身が熱い。
 理性と本能の狭間でのたうち回っている。自分が今どんな姿なのか、どんな顔をしているのか、把握することすらできないでいた。
 震える手が触れそうになる。彼らはにやにやしながらそれを頭上から眺め、ずっと向けられているスマホが今すぐ消したい記憶をその小さな画面に収め続けていた。
 目に涙を溜め、は、は、と熱くて浅い呼吸を繰り返す。女子もいる教室の中で欲情させられているなんて屈辱的だった。どうにかしたいのに、一人になりたいのに、思うように体を動かせない。薬の作用に抗えず、ただ苦しくて情けなくて恥ずかしくて。男としてのプライドも捨てて大粒の涙を流してしまった。
 そうしたところで落ち着くはずもなくて。限界まで張った理性の糸が今にも切れそうになったその時。朝一番に聞くチャイムが鳴り響いた。この場の悪い空気を切り裂いてくれるかのように。
 その音でハッとなり、息を乱したまま視線を彷徨わせる。俺のことなんてまるで見えていないようなクラスメート。何事もなかったかのように自分の席に座り始めるその姿を、俺は絶望的な思いで見ていた。別に、いつものことなのに、慣れてしまったはずなのに、無性に辛くなる。死にたくなる。
 死にたかった。死にたい。体は熱いまま。死にたい。症状が治まらない。死にたい。袖を捲った腕に、深く、深く、歯形をつける。死にたい。本能を、自分を、噛み殺してやりたい。死にたい。噛んだ痛みが生きていることを知らせる。死にたい。痛い。死にたい。苦しい。死にたい。悲しい。死にたい。死にたい。死にたい。死にた
 そうか。死ねばいいのか。そうだ。死ねばいいんだ。死にたい。死ねばいいのかよ。俺が。死ねばいいんだろ。俺が。死にたい。死ねばいい。死ね。死ね死ね死ね。俺、死ね。死ね。死にたい。
「なんか此奴自分の腕噛んでるんだけど」
「自傷行為きっしょ」
「もう少しで自慰しそうだったのに、チャイムのせいで理性保たれたかもなー」
「でもこれはこれで狂ってて笑える」
「滑稽だよな」
「男なのに泣きまくってるのもダサくて抱腹絶倒しそう」
 汚らしい声で笑いながら、彼らは当然のように俺を蹴り飛ばした。腹を狙われ一瞬だけ息ができなくなる。
 床に這いつくばって苦しむ俺を見下ろして、心の底からおかしそうに笑い続ける彼ら。何重にもなって聞こえるその笑い声が頭に響いて鈍痛が走った。
 様々な色が入り混じった涙を流したまま、もっと腕を強く噛んで、それこそ血が出そうなほどに思い切り噛んで、何も叫べずに内側に溜まるだけの感情をぶつける。そうやって必死に気持ちを落ち着かせた。痛い。熱い。薬の効果はまだ切れてくれない。
 目の前の床を見て泣きながら自分を噛み殺していると、担任が教室に入って来たのが気配や足音、上からの視線、僅かな空気の変化で察した。俺の惨めな姿を見ている人の数が一人増えてしまった。
 周りの視線が俺を攻撃する。担任は何も言わない。自分の受け持つクラスで何が起こっているのか分かっているはずなのに、何もしない。前に一度それとなく助けを求めたことがあるけど、お前に問題があるんじゃないかと一蹴され、相手にしてもらえなかった。お前はそれなりの顔を持っているのに気が弱いから舐められるんだと難癖すらつけられる始末。自分でどうにかしろと突き放されているかのようだった。
 担任は信用できない。俺の気が弱いから舐められているんだと思っている担任に縋った自分がとても情けなかった。消えてなくなりたい。消えてしまいたい。
 俺は僅かな力を振り絞って立ち上がり、水浸しになっている床やその辺に転がっている青いバケツ、投げ捨てられているアダルト雑誌をそのままに、覚束ない足取りで駆け出した。担任が俺を制止するような声が聞こえた気がしたけど、今更何を言うつもりなのか。SHRを始めるから席に着けとでも言うのだろうか。悲惨な現場と化した教室について尋問でもするのだろうか。床を水浸しにしたのは誰だ。彼奴です。俺じゃない。この雑誌を持参してきたのは誰だ。彼奴です。俺じゃない。
 幻聴なのか本物なのか、俺を嘲笑う多くの声が全身にまとわりついた。泣きたくなんてないのに、涙が溢れて止まらない。体もおかしいままで、頭がぼんやりする。狂ってしまいそうだった。
 強く噛んでいた腕には歯形がくっきり残っている。少量ではあるけど血も出ていて、その付近は赤くなっていた。
 乱れた服を治すこともせず、まるで死ぬ間際のように廊下を進んでいると、突然何者かに腕を掴まれ物凄い力で引っ張られた。薬の影響で敏感になっている体に触られると、訳の分からない痺れるような感覚が押し寄せてきて。咄嗟に手を振り払おうとするも、あっという間に空き教室に連れ込まれてしまう。狼狽する中、俺は床に押し倒されていた。視線の先にいるのは、さっき俺を制止しようとしていた担任で。目を見開く。一体何が起こっているのか、何が起こったのか、状況が掴めない。
「今まで必死に我慢してきたのに、こんな乱れた姿で誘惑するなんて、襲ってくださいって言ってるようなもんだよな」
 これは先生を挑発した淫らなお前が悪いんだよ。制服のボタンを無理やり引きちぎられ、下に着ていた白いTシャツすらも強引に持ち上げられた。頭が真っ白になる。俺は誰に何を言われているのか。何をされているのか。理解できなかった。理解したくなかった。
 何も考えたくないのに。何も感じたくないのに。肌に触れる気持ち悪い手に反応してしまう体。薬の作用でおかしくなっている俺を見て完全に興奮している担任は、ただの教師の仮面を被った性犯罪者だった。
 逃げたいのに、逃げられない。相手の力の方が圧倒的に強い。男の教師に襲われるという予期しない出来事にパニックに陥り、めちゃくちゃに泣き喚きそうになる俺の口を担任は手で塞いだ。泣きすぎて頭が痛い。
「傷だらけになった体、先生が治してやるから」
 自分に酔っている狂った担任に、一方的な感情を押し付けられた。彼らからの暴行によってできた体の痣に、鼻息を荒くさせている担任は唇を寄せて舌を這わせる。俺の口を塞いでいない方の手は、いやらしい手つきで太腿に触れていた。あまりの恐怖に息ができなくなり、体の震えが止まらなくなった。誰か助けて。
 痙攣しているみたいに小刻みに震えながらも必死に抵抗を示すけど、何も変化は訪れなかった。寧ろ暴れたことで、腕の噛み跡に気づかれる。嫌な予感が胸を覆い尽くし咄嗟に隠そうとするも、手首を締め付けられたことで失敗に終わった。俺の歯形がまだ残っているその部分を凝視する担任を見て、あ、あ、と思わず声が漏れてしまう。やめて。やめろ。やめてください。
 担任は俺の気持ちなんてまるっきり無視で、歪な笑みを浮かべながらそこに顔を近づけてきた。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いやめろやめてくれなんで俺なんだふざけるなやめてくださいやめて嫌だ気持ち悪い俺を選ばないでこれ以上苦しみたくないやめて助けて息ができないやめてくださいやめてくださいやめてくださいお願いしますお願いしますお願いします。
 彼らからのみならず担任にも追い詰められ精神的に限界が訪れようとしていた。自傷した腕には凝固しつつある僅かな出血。担任は恍惚としていた。傷ついた体や人を見ることが性癖だと言わんばかりに。
 そこではたと気づく。ああ、まさか。以前俺が助けを求めた時に一切相手にしてくれなかったのは、俺がいじめで傷ついているのを見て享楽を得ていたからなんじゃないか。だから、彼らの行為を止めようとはせず、俺を突き放して自分もいじめを楽しんだ。
 俺の知らないところで、俺の苦しみがこの人の性処理に使われていたのかもしれないと想像したら、もうどこをどう歩けばいいのか分からなくなった。目の前が真っ暗になって。絶望する。
 願っても誰も来てくれない空き教室で、担任は俺の腕にある噛み跡を舐め始めた。そうしながら、空いた片手は俺の下半身を触る。もう何が何だか分からなかった。俺をいじめて嘲笑う彼らも、それを見て俺に欲情する担任も、黙って傍観しているだけのクラスメートも、何を考えているのか分からない。男なのに泣いてばかりいる弱い俺も、自分がどうしたいのか分からない。思考が支離滅裂だった。
 抵抗しても意味がないことを悟り、嗚咽を漏らしながら必死に堪えていると、扉が乱暴に開かれる音がした。担任が我に帰ったように振り返る。
「教師が生徒に何してるんだ」
 空き教室の前の廊下を通っていたのか、中の様子に気づいたらしい男性教師が担任を取り押さえて俺から引き離した。担任は、これは彼奴が悪いんだよ、淫らに俺を挑発したから、と責任転嫁で処罰を逃れようとする。男性教師はそんな大人げない言葉で揺れるほど無知なんかではない。警察に通報させてもらうし、そうすれば教師は続けられないだろう、と担任を顔面蒼白にさせた。
 俺はやっと、彼らからも担任からも一時的に解放されて。ずっと張っていた緊張の糸がプツンと切れてしまった。大丈夫か、という俺を案ずる声に何も答えられないまま、俺は全てを忘れるように意識を手放した。