待ち合わせ場所に着くと、すでに優一郎はいた。奥の隅っこの席に座って、何か本を読んでいる。

「先輩」

 琴乃が声をかけると、優一郎は本から視線をあげ、琴乃の顔を見て笑んだ。

「飲み物、頼んできてもいいですか?」

「うん、いいよ。待ってるから」
 そんな優一郎の前には、汗のかいた紙のカップが置いてある。中身は、なんだろう。ちょっと気になる。
 琴乃はカウンターでコーラとポテトを注文し、そのトレイを持って優一郎の席へと戻る。

「ポテトの匂いを嗅ぐと、なんか食べたくなりませんか?」

「そうだね」

 やはり時間帯が時間帯なのだろう。席はまばらに埋まっていた。彼らの席の近くには誰もいない。空いているなら、他人と距離を取りたいと思う気持ちがあるのかもしれない。

「それで先輩。急にどうしたんですか?」

「ん? いや、琴乃。最近、部活に行ってる?」
 気づかれていたか。

「えっと、どうしてですか?」

「昨日、合格発表だったから。その後、塚本先生にも報告のために物理部に寄ったんだよね。そしたら、一年の二人しかいなかったからさ」

「あー。そうだったんですね。実は、かれこれ十日程、行けてない日が続いています」
 琴乃はとうとう優一郎にばれてしまったからか、しゅんと肩を落とした。

「そうか」
 優一郎は呟くと、ストローに口をつけた。氷がとけて薄まってしまったのか、少し顔をしかめる。

「あ、先輩。合格、おめでとうございます。最初に言おうと思っていたのに、すっかり忘れてしまいました。ごめんなさい」
 優一郎に会えたことが嬉しくて、最初に言おうと思っていた言葉が、すっぽりと頭から抜け落ちてしまったようだ。

「あ、うん。ありがとう。まあ、学校推薦だからね」

「それでも、国立じゃないですか。工学部ですか?」

「そうだね」
 うーん、いまいち会話が弾まない、と悩む琴乃。ここに回路図があればもっと会話も弾んだだろうに。なぜここが物理室ではないのか、と思う。

「琴乃も同じ大学においでよ」
 突然、優一郎がその言葉を放った。

「え」

「次は大学で、一緒にロボコンに出場しよう」

「え、ロボコン。あのテレビでやってる?」

「うん。あれは優勝すれば日本代表として世界大会にも出場できる」

「え、世界?」
 規模の大きさに、琴乃はついつい目を見開いてしまった。

「そう。ロボ相撲の全国で優勝できないやつが何を言ってるのかって思うかもしれないけれど」
 琴乃は首をぶんぶんと横に振った。優一郎は先を見据えていた。こんなところでくすぶっている琴乃とは大違いだ。

「きっと琴乃はさ。今、ロボ相撲も終わって、僕たちも引退しちゃって。目の前の道が無くなっちゃった感じなんじゃないかな」

 優一郎からそう言われ、そうかもしれない、と思った。歩いてきた道が突然途切れてしまった感じ。これじゃ散歩もできやしない、ということに気付いた。

「そうですね」
 コーラのストローに口をつけた。黒い液体がストローの中をよじのぼってきて、琴乃の口の中に刺激を与える。