元女子高であるこの公立高校には、化学部、生物部、地学部があったにも関わらず、なぜか物理部がなかった。共学になって一年目、それを不思議に思って物理教科担当に尋ねたところ。

「じゃ、物理部、つくる?」
 という軽い返事をもらうことができた。普通科の他に、数理科、デザイン科があるこの高校は、わりとなんでも自由らしい。と言っても、法に反しない限り。高校生らしい生活を送る限り、だが。
 その物理部の創設者である鶴原(つるはら)優一郎(ゆういちろう)が二年に進学した時、部員がなんと四名になった。化学部と兼部している同じクラスの男子生徒二人が途中入部し、そして新入部員として一年生から一人。なんともまあ、活動を始めてみるものだ。

 さて。物理部。何をしているのか、どんな部活なのか。
 物理といえば、アインシュタインの相対性理論が頭に浮かぶ者も多いかもしれない。だが、新入部員に相対性理論を知っているかと尋ねたら。
「なんですか、それ? 相対性? どんな体制ですか?」
 とわけのわからない質問がきた。説明するのも疲れそうなので、知らないなら知らないでいい、と答えたところ、なぜかその新入生は不機嫌になった。
 そんな感じの相対性理論なので、もちろん扱わない。ならば、力学か、波動学か。これはどちらも面白そうではあるのだが、やはり部活動で扱うと言ったら電磁気学だ。その中で最も興味深いのは電気回路。ただ、電気回路だけでは事足りず、電子回路というより大きなものを扱っている。
 そう、つまり物理部とは名前ばかりでその本性は電子工作部、となっているというわけだ。
 それに気付いたクラスメートが二人、入部してきた。電子工作は男のロマンである(言ってみたかっただけ)。
 一人でこつこつと回路を組んでいるのも面白いが、ちょっと手が足りない時に、三本目の手として他の部員が手伝ってくれる、というのは非常に助かる。
 ちなみに顧問は例の物理教科担当である。

「僕は、物理準備室にいるから、自由に活動して。活動の開始時間と終わりには、こっちに連絡してね」
 ということで、まったく干渉してこない。だが。
「あー。必要な材料があったら買ってあげるから。とりあえず、追加で半田ごてと半田吸い取り機は買ったからね。あとは、ブレッドボードかい? あとね、何か作りたいときはまずは設計書を作ってくれる? そして、それを僕にレビューして。部活中ならいつでもいいから。そして僕が面白いと思ったら、買ってあげるから。それまでは、物理室か準備室にあるものを適当に使って、適当に実験して」

 適当なのか真面目なのか、やる気があるのかないのかわからない顧問である。