ラジオフラストレーション















これは、僕と、洋ちゃんの話だ。



ぐるん、と世界が廻る。
少し眩暈がした後、ちさきに映り込んできたのは見慣れた横顔だった。ちょっと癖のある前髪が黒縁眼鏡にかかっていて邪魔くさそう。

「起こしてって言ったのに」

腕を伸ばして上半身を反らす。辺りはもう日が暮れていてオレンジ色が空に波を描いている。ちさきは風景がどんどん美しくなくなってやるせない気持ちになった。

「この空間が居心地よかっただけだよ」
「僕は嫌いなの!綺麗じゃないもん」

誰もいない教室。今日は卒業式だった。黒板には“ありがとう水上高校”とカラフルなチョークで派手に書かれた文字。二人はこの高校の最後の卒業生だった。

「そうじゃなくて、睫毛…」
「睫毛?」

洋一は光に透けたちさきの睫毛を見た後、

「……いや、何でも」

すぐに視線を逸らした。ちさきは洋一が何を伝えたいのか分からなかったがいつものことなので聞くのはやめた。

「帰ろう!洋ちゃん」

ちさきは勢いよく立ち上がり鞄を手にする。だがいざ教室を出るとなると名残惜しさを感じ、黒板を見つめた。立ち止まったちさきの頭を洋一が撫でる。

「大丈夫。何も変わらない」
「…でもこの姿が見られなくなるのは寂しいでしょ?」
「ふっ、そうだな」

ちさきは笑ってスカートを靡かせるように歩き出した。洋一はその後ろ姿を見つめながらついていく。下校の音楽がなる。ちさきは音楽に適当にのりながら歩いた。

「なんか、現実味がないな。この学校とさよならするの」
「うん」
「高校生じゃなくなったら自分を守ってくれるものがなくなる感じ」
「うん」

同じ返事しかしない洋一を見るためにくるりと後ろを振り向く。ちさきは手を後ろで組んで最大限のぶりっ子をした。上目遣いが出来る位置まで屈んでいるのだが、洋一は何てない顔をしたまま読んでいた本を閉じる。

洋一はいつも同じブックカバーで、多分哲学とか純文学とか難しいもの。顔を上げた洋一の眼鏡には揺れる夕日が映っていた。その光景に少し怖くなる。