そんなこんなで、昨日の夜は俺の部屋のベッドで三人、肩を寄せ合って寝た。
これも、ゆちあのわがままのせいだ。
「今日はゆちあのとくとーせきで寝たい」
とうるうる瞳で言われたんだから仕方ないよね。ゆったり寝たいからという理由で、中学二年生の時にセミダブルサイズのベッドを両親にねだっておいた自分ナイス! 俺が高校受験に失敗するまで、「勉強に集中したい」と言えば、両親は俺の言うことをなんでも聞いてくれた。
「おとーさん。早くおかーさんとこ行こ」
ゆちあに手を引っ張られながら階段を下りる。
「朝ご飯ももうすぐできるって言ってたよ」
「え、そうなのか?」
ゆちあの言葉に素直に驚いた。
愛実、料理できたんだな。
そういや昨日栄養バランスがどうのこうの言ってたっけ。
「うん。でね、ゆちあもトマト洗うの手伝ったんだよ」
「そっかぁ、とことん偉いなぁゆちあは」
空いている方の手でリビングの扉をうんしょと開けたゆちあの頭をまたなでてやる。すぐにダイニングテーブルの上に置かれた朝食が目に飛び込んできて、俺は目を疑った。
「これを愛美が?」
そこに並べられていたのは、焦げ目まで綺麗なフレンチトーストに、トマトとレタスときゅうりのサラダ、それにポトフって言うんだっけ? にんじんと玉ねぎとじゃがいものスープがあった。
「おかーさん。おとーさん連れてきたよ」
「ありがと、ゆちあ。ねぼすけさん起こすの大変だったでしょ?」
「誰がねぼすけさんだこら」
そうツッコみながらキッチンにいる愛美に視線を向ける。彼女は制服姿だった。その紺色がスタイル抜群の体によく似合う。
「事実を言ったまででしょ? 子供のゆちあに起こされるなんて恥ずかしいと思いなさい」
「それはまあ…………ってそんなことよりこれ、朝ご飯、だよな」
「腕によりをかけて作りました」
「お前……料理できるんだな」
俺はテーブルの上の料理を再度見た。ホテルの朝食メニューとして出てきてもおかしくないくらいの華やかな料理を愛実が作れるなんて信じられない。勉強ばっかりしてたんじゃなかったのか?
「そんなの当然でしょ。私の夢を叶えるためだもん」
「夢? 料理が?」
医者になるんじゃなかったのか?
「あ、ああえっと、あれよあれ! 料理で手先の器用さを鍛えようと思って」
俺が追及したとたん、愛美はなぜか顔を背けて早口で説明し始める。
「手術にはミリ単位の正確性が求められるから、手先の器用さは必須でしょ? 料理って結構それを鍛えられるの。私のお父さんも料理うまかったし」
「へぇ。つまり未来を見据えてたってことね」
愛実の言葉を聞いて、俺は愛美の意識の高さに感心すると同時に、自身の考えの甘さにショックを受けていた。
俺は医者になるためにどうするかしか考えてなかったが、本当に夢を叶える人というのは、なる前からなった後のことを考えられる人なのだろう。
やっぱり天才は思考からして違うな。
さすが、【願いの灯】の中に、【大きくなったらお父さんみたいな医者になりたい】って書いた短冊を入れて、天国のお父さんに届けただけのことはある。
「ってかこんなの簡単だから智仁だって作れるでしょ」
「それは、そうかもしれないけど」
謙遜する愛実を見ながら考える。
たしかに、今日テーブルに並んでいる料理は俺にだって作れるのかもしれない。今はスマホという文明の利器がる。レシピも材料も簡単に検索できる。こんなにうまくフレンチトーストが焼けるかは別問題だが。
「でも俺は作りたいと思ったことなかったから、ありがとう」
色鮮やかな料理に視線を落とすと、自然と笑みがこぼれていた。だって事実として、俺はこれまで誰にでもできる料理を作ろうとしなかった。コンビニ弁当やカップラーメンばかりを選び、面倒くさい時は食べないなんて選択肢も取っていた。
だからやっぱり、目の前の料理は誰でも作れる料理ではないのだと思う。
「感謝されることじゃないってば」
「そうやって照れるところは子供のままだな」
「もう。どういたしまして」
「あれっ? そういや、この料理に使った材料は?」
俺の家にはカップラーメンしかなかったはずだ。
「ゆちあと一緒に近くのコンビニで買ってきたの。コンビニって売ってるもの増えたよねー。びっくりして買いすぎちゃったかも」
「悪い。じゃあお金払うよ」
「いいって。協力してくれるお礼だと思って」
それから流れるように、「あ、ココアとコーヒー、どっちがいい?」と言われたので反論するタイミングを失った。愛実は意外と頑固だし、そんな彼女がお礼だと言うなら、ここはお言葉に甘えて奢られておこう。
「それじゃあ、コーヒーで」
「ゆちあミルクココア!」
「了解。ゆちあと座って待ってて」
「先に顔洗ってくるよ」
「おっけー。終わるころには用意できてると思うから」
俺は脱衣所にある洗面台に向かう。するとそこには三本の歯ブラシが置いてあった。これもコンビニで買ってきたのだろうか。
なんだろう。
このホワホワした感覚は。
家の中に他人がいると朝からこんなにも喋らないといけないんだな。そんな環境久しぶりだから脳が疲れているのだろうか。でも疲労感とは違う気がする。歩くたびに体が浮きそうになるというか……よくわからん。
でも、まあいっか。
いい気分だから。
これも、ゆちあのわがままのせいだ。
「今日はゆちあのとくとーせきで寝たい」
とうるうる瞳で言われたんだから仕方ないよね。ゆったり寝たいからという理由で、中学二年生の時にセミダブルサイズのベッドを両親にねだっておいた自分ナイス! 俺が高校受験に失敗するまで、「勉強に集中したい」と言えば、両親は俺の言うことをなんでも聞いてくれた。
「おとーさん。早くおかーさんとこ行こ」
ゆちあに手を引っ張られながら階段を下りる。
「朝ご飯ももうすぐできるって言ってたよ」
「え、そうなのか?」
ゆちあの言葉に素直に驚いた。
愛実、料理できたんだな。
そういや昨日栄養バランスがどうのこうの言ってたっけ。
「うん。でね、ゆちあもトマト洗うの手伝ったんだよ」
「そっかぁ、とことん偉いなぁゆちあは」
空いている方の手でリビングの扉をうんしょと開けたゆちあの頭をまたなでてやる。すぐにダイニングテーブルの上に置かれた朝食が目に飛び込んできて、俺は目を疑った。
「これを愛美が?」
そこに並べられていたのは、焦げ目まで綺麗なフレンチトーストに、トマトとレタスときゅうりのサラダ、それにポトフって言うんだっけ? にんじんと玉ねぎとじゃがいものスープがあった。
「おかーさん。おとーさん連れてきたよ」
「ありがと、ゆちあ。ねぼすけさん起こすの大変だったでしょ?」
「誰がねぼすけさんだこら」
そうツッコみながらキッチンにいる愛美に視線を向ける。彼女は制服姿だった。その紺色がスタイル抜群の体によく似合う。
「事実を言ったまででしょ? 子供のゆちあに起こされるなんて恥ずかしいと思いなさい」
「それはまあ…………ってそんなことよりこれ、朝ご飯、だよな」
「腕によりをかけて作りました」
「お前……料理できるんだな」
俺はテーブルの上の料理を再度見た。ホテルの朝食メニューとして出てきてもおかしくないくらいの華やかな料理を愛実が作れるなんて信じられない。勉強ばっかりしてたんじゃなかったのか?
「そんなの当然でしょ。私の夢を叶えるためだもん」
「夢? 料理が?」
医者になるんじゃなかったのか?
「あ、ああえっと、あれよあれ! 料理で手先の器用さを鍛えようと思って」
俺が追及したとたん、愛美はなぜか顔を背けて早口で説明し始める。
「手術にはミリ単位の正確性が求められるから、手先の器用さは必須でしょ? 料理って結構それを鍛えられるの。私のお父さんも料理うまかったし」
「へぇ。つまり未来を見据えてたってことね」
愛実の言葉を聞いて、俺は愛美の意識の高さに感心すると同時に、自身の考えの甘さにショックを受けていた。
俺は医者になるためにどうするかしか考えてなかったが、本当に夢を叶える人というのは、なる前からなった後のことを考えられる人なのだろう。
やっぱり天才は思考からして違うな。
さすが、【願いの灯】の中に、【大きくなったらお父さんみたいな医者になりたい】って書いた短冊を入れて、天国のお父さんに届けただけのことはある。
「ってかこんなの簡単だから智仁だって作れるでしょ」
「それは、そうかもしれないけど」
謙遜する愛実を見ながら考える。
たしかに、今日テーブルに並んでいる料理は俺にだって作れるのかもしれない。今はスマホという文明の利器がる。レシピも材料も簡単に検索できる。こんなにうまくフレンチトーストが焼けるかは別問題だが。
「でも俺は作りたいと思ったことなかったから、ありがとう」
色鮮やかな料理に視線を落とすと、自然と笑みがこぼれていた。だって事実として、俺はこれまで誰にでもできる料理を作ろうとしなかった。コンビニ弁当やカップラーメンばかりを選び、面倒くさい時は食べないなんて選択肢も取っていた。
だからやっぱり、目の前の料理は誰でも作れる料理ではないのだと思う。
「感謝されることじゃないってば」
「そうやって照れるところは子供のままだな」
「もう。どういたしまして」
「あれっ? そういや、この料理に使った材料は?」
俺の家にはカップラーメンしかなかったはずだ。
「ゆちあと一緒に近くのコンビニで買ってきたの。コンビニって売ってるもの増えたよねー。びっくりして買いすぎちゃったかも」
「悪い。じゃあお金払うよ」
「いいって。協力してくれるお礼だと思って」
それから流れるように、「あ、ココアとコーヒー、どっちがいい?」と言われたので反論するタイミングを失った。愛実は意外と頑固だし、そんな彼女がお礼だと言うなら、ここはお言葉に甘えて奢られておこう。
「それじゃあ、コーヒーで」
「ゆちあミルクココア!」
「了解。ゆちあと座って待ってて」
「先に顔洗ってくるよ」
「おっけー。終わるころには用意できてると思うから」
俺は脱衣所にある洗面台に向かう。するとそこには三本の歯ブラシが置いてあった。これもコンビニで買ってきたのだろうか。
なんだろう。
このホワホワした感覚は。
家の中に他人がいると朝からこんなにも喋らないといけないんだな。そんな環境久しぶりだから脳が疲れているのだろうか。でも疲労感とは違う気がする。歩くたびに体が浮きそうになるというか……よくわからん。
でも、まあいっか。
いい気分だから。