生まれたままの姿なんて、十二歳を過ぎてからは、弟と妹にしか見せてないのに! よく一緒に近所の銭湯に行っていたから! いくらイケメンだったとしても、見ず知らずの男になんて嫌にゃー!

 慌てて胸を隠そうとしたところでハッとする。

 私の胸ってDカップくらいだと思っていたけど、なんだかFにサイズアップしていない? そ、それだけじゃなくて、二の腕も、お腹も、お尻も前よりむっちりずっしりしているような……。

 カイは私の体をじろじろと眺め、うんうんと腕を組んで頷いた。

「俺はそれくらい肉付きのいい女が好きだ。最近はカレリアもリンナも妙なダイエットブームで、痩せた女ばかりでつまらないからな」

 うわーん、やっぱり太っていた!!

 よく考えなくても当たり前だ。あのお屋敷で二週間食っちゃ寝生活。アトス様に毎日遊んでもらっていたから、運動をしなかったわけではないけれども、それ以上に食べていたから……! だって後ろ足で立ち上がって前足を合わせて、「ちょうだいちょうだい」をすると、執事もメイドも皆ハァハァしながらおやつをくれたから……!!

「ダイエット! 今すぐダイエットしなくちゃ!」

 ムンクになる私に呆れたのか、カイは指先で頭を掻いている。

「だから必要ないって。まあ、とにかくリンナに帰ったらすぐに結婚式だな。いや待て。その前に子作りも悪くないか。既成事実があれば何かと話が早いしな」

「け、結婚式!? 既成事実!?」

 なんでいきなりそうなるわけ!? 多分結婚って出会って恋をして、二、三年お付き合いして、ご両親に挨拶をしてするものじゃないの!? 前世でも今世でもまるでモテなかったから、実体験皆無で世間様の基準がわからんのが悲しい……。

 降って湧いた結婚話に慌てふためく私を前に、カイはとんでもないことを言い出した。

「そう、俺一刻も早くガキ作んなきゃならなくて。純血種は辛いよってやつ」

「いや、待って。ちょっと待って! ガキって!」

「助ける代わりに嫁になるって約束しただろ?」

 すっくと立ち上がると私の腰に手を当て、ひょいと肩に抱え上げてしまう。

 こ、こいつ痩せてみえるけれども力持ち……! 

 私は頭が逆さまになりつつじたばたと暴れた。
 
「お代官様、堪忍してにゃー! そんなご無体にゃ! ひらに、ひらにご容赦をー!」

「まあ、いいじゃねえか、いいじゃねえか。大事にするからさ。それに、俺これでもリンナじゃ貴族なんだ。食うには困らせないから、バンバン俺の子を孕め。最低十人は欲しいな。猫族は双子もよくあるから楽勝だろ」

「あ~れ~!」

 まさかこんなところでお代官様と町娘プレイをする羽目になるとは……!

 カイが「それにしても」としみじみと呟く。

「お前、やっぱ結構乳でかいな。これなら何人産んでも大丈夫だろ」

「……!!」

 そう言われてぎょっとして次いで真っ赤になる。胸をカイの背中に押し付ける体勢になっているじゃない!

「ぎにゃー!! えっち! ちかん! やかん! どかん! みかん! いよかん! ぽんかん! あんぽんたんのばかー!!」

 私は岸に打ち上げられたアザラシのごとくビチビチともがいた。

「……っ! おい、お前約束しただろ!? 猫族二言はないんじゃなかったのか!?」

「ちゃんと多分って言ったもん! 契約書は最後までよく読みましょうー!」

 私は大きく息を吸い込み、ぐっと手足に力を込めた。人間に戻る方法が分かった今、猫に変身する方法もわかる。魔力を魂の核にためるイメージで、大きく息を吸い込めばいいのだ。

 みるみる体が小さくなって私は四つ足の獣になる。

「お前……!!」

 私はカイの体の下からウナギのように抜け出して、出口に向かって全速力で駆け出した。