俺はもう伊水が諦めていくのを見て見ぬふりをしない。したくない。

今まではずっとそうだった。あの病院で会った時、初めはどうして

伊水は落ち込んでいるのかわからなかった。だけれど伊水のお母さんに

秘密で教えてもらった。余命宣告のことを。それから最近、

ニューヨークに行くことになったことも。

伊水は行くことにした。だけれど心のどこかでは諦めている。

生きたい。そう思っているのに叶えられないと思っているんだ。

そりゃあそうだろう。余命宣告までされて、胸の内を誰にも話せていない。

だから今日、俺は伊水に聞きたいんだ。本当の気持ちを。

 あの時将来の夢を語ってくれたことが本当に嬉しかった。

安心した。

だからこれからも諦めてほしくないんだ。

「伊水、本当に、ニューヨークに行きたいのか?」

「そりゃあ行きたいよ。生きられるんだよ。
 それにこの道を選ばないわけがないよ」

伊水は笑って行って見せた。

「違うっ…‼伊水は、伊水はきっと勘違いしてる。ただ、伊水が本当に
 行ってずっとあっちで居てもいい。それならいいんだ。
 だけれどその気持ちをせめて解消してから行ってほしいんだ。
 叶わない。そういう気持ちの仮面をかぶってるだけだよ。伊水は。
 それを取れば別の何かが生まれるかもしれない‥‥」

必死だった。伊水に元気になってほしい。けれど身体だけ元気になったって

諦めていたらそれは行けないと思う。ずっと彼女の本心は牢屋の中だ。

「‥‥私は行きたくないよっ…本当は。だけれど生きられない。
 だけどみんなと別れたくない。戻ってこればいい。そう思ってた。
 だけど移植しても、完全には良くならないんだ。ずっと入退院を
 しなくちゃいけないって…」

「‥‥」

何も言えない。きっと彼女の気持ちは表面から見てもわからない。

きっと彼女の本心は奥深く眠っている。

「ずっとここで生きていたい。皆と一緒に居て、暮らせるだけで良い。
 元気に走り回りたいとか、そんな事…願いもしないから。せめて
 一緒に居たかったの。‥‥複雑だよね、私の気持ち」

「そんなことない。俺なんかにはきっとわからないけれど、
 伊水の気持ちは叶う」

「そうだね…取り合えずニューヨークに行くことは待ってもらってる。
 今。答えが出たよ」

「じゃあ、お母さんに言いに行こう」

「うん」

2人で病院に向かった。

決して後悔してほしくない。

決して諦めてほしくない。

だって彼女は俺が想った最初の一人だから。