ユタさんと会ってまる1年たった今日。
私は、パーティー帽を片手に屋敷を訪れていた。
「2人の出会いを祝して乾杯!」
「乾杯!」
コンと鈍い音一つ。勿論コップには並々とお酒……ではなくコーヒーが注がれている。
ユタさんはものを掴むことが出来ないので、私が両手にコップを持って乾杯の振りをする。帽子も被ることができないので一人で。
例え物を掴めなくても、食べることが出来なくても、騒ぐことなら容易い。
ユタさんにはどんちゃんと騒ぐ役目を担ってもらっている。
物音を起ても苦情がこない。
山奥の別荘だからできることだろう。
ガタガタと物音をたてながら辺りではね回った。
屋敷はそれ程古くはないからか、着地の度にトントンとノックのような音がする。
ふと、部屋の隅で跳ねてみるとガタガタと何かが動いている音がした。
その音が鳴るのは、部屋の隅だけ。
その他で跳ねても聞こえるのは私の足音だけだった。

「泥棒がいるのかも……」

ポツリと独り言が漏れた。
自分の家に招かれざる客が居る。
そう考えただけで、鳥肌が立つ。
ちらりと伺うとユタさんは、意外にもどこか寂しそうな顔をしていた。
それも一瞬のことですぐに元の楽しそうな顔に戻った。

「もしかしたら、私と同行者かも」

ユタさんの同行者。つまり、もう生きていない人。
ユタさんは「そうだったら、嬉しいな。1度話してみたかったの」と言葉を続け、話を捲したてる。
何か思うところがあるのだろう。
しかし、私の中でなにか引っかかっている。
何かは具体的には分からない。

やはり気になる。

「私が様子を見てくるよ」

「え、大丈夫だよ!きっとネズミ!だから、座ろう」

パーティー帽を脱ぎ、立ち上がろうとした。
ユタさんは、私を座るように説得しようとする。
怪しい。
立ち上がって辺りを見てくるだけなのに、何か不味いものでもあるのか。
私はユタさんの制止を無視して部屋を出た。
リビングを出ると広くて長い廊下が広がっている。
横幅も私の両手を広げて少し足りないぐらい。
辺りを探してみたけれど、特に異常はなし。
本当にネズミだったのかもしれない。
そう思って、部屋に帰ろうと玄関に背を向けた。
その時、ガチャガチャと玄関のドアを開けようとする音がした。