十一月に入って五日ほど、日に日に気温は下がっていくものの珍しく好天が続いている。この時期の晴れはありがたいが、その分朝の冷え込みがつらい。これは、なんというやつだったか。フェーン現象?
「放射冷却だ」
 涌島は苦笑しつつ、ハンドルを繰る。
「私、選択は生物だったので」
「中学理科の範囲だろ」
 そう言われたらそうだった気もするが、覚えてない。洟を啜りつつ、ストールに首を埋めた。ホワイトデーに涌島からもらったボルドー色っぽい一枚だが、未だ本人は何も言う気配がない。まあ「使ってくれてるんだ、嬉しいな。よく似合うよ」なんて絶対似合わない台詞だから、いいんだけど。
 シートにもたれて、窓の外を眺める。少しずつ増えていく緑はどこか懐かしいが、気が重い。今日の案件は、用瀬町(もちがせちょう)。国道53号線を二十キロほど南下した先にある町だ。平成の大合併で併合され、今は鳥取市となっている。
「今日の案件、なんとなく気が重いんですよね」
「そうか? 蔵の中にいるってだけだろ」
 そうなんですけど、と返して溜め息をついた。
 今回の案件は、涌島の実家経由だ。ADRではない表業務と裏業務の両方で依頼されている。「うちの土地を分割して売りたい」とのことだが、どうもその分割して売りたい土地にある蔵に出るらしい。依頼人からはなんの話もなかったものの、下見に行った涌島の父親が気づいてうちへ流れてきた。涌島の霊力は、父親譲りだ。
「土地分割の理由はなんだったんですか?」
「税金対策ってことだけどな」
「まあ、広い土地家屋だと相続税も固定資産税もかかりますもんね」
 山へ進めば進むほど、一軒あたりの土地が広くなる。一軒百坪なんて当たり前のようにあるし、蔵を持つ家も多い。近所の家まで数百メートル、といったところか。辺りは刈り入れを終えた田が広がっていた。
 見るからに、土地探しには苦労しない場所だ。敢えて我が家の一部を分割して売却し、すぐ傍に他人を受け入れようとするのはなぜか。
「私は、蔵ごと何かを葬り去ろうとしているような気がして」
「そうかもしれねえけど、顔に出すなよ」
 着いた場所は山の麓、収穫を終えた田の中にある家だ。
「気をつけます」
 鍵を引き抜く涌島に、私もストールを外す。まずは、話を聞かなくては。
 スーツの胸元を軽く払ったあと、車を降りた。