「もしかして、初めから私が邪魔だった?」

 切なげな表情の中尾くんを横目に睨んだ汐里が、ふっと息を漏らす。

「なんか、バカらし……」

 中尾くんの手を思いきり振り払った汐里が階段で足を滑らせる。傾いた汐里の身体が、階段から落ちてくる。

「汐里?!」

 唇を噛み締めた汐里は、そんな状況でも悲鳴すらあげず、階下に立つ私をじっと睨んでいた。

 中尾くんが焦って手を伸ばしたけれど、階段から落下する汐里の身体に届かない。

 落ちてくる汐里を受け止めるために、私も前に足を踏み出す。汐里を抱き止めて階段から転げ落ちる私の耳に、中尾くんの叫ぶ声がした。

「吉崎さん!?」

 どこかで打ちつけた頭に、ズキンと波打つような痛みが走る。少しずつ遠のいていく意識が途切れる直前、強く願った。


 あの瞬間(とき)まで、戻れたらいいのに──……。