「ごめんね。汐里、追いかける」
ふらり、と立ち上がった中尾くんが、保健室を飛び出していく。私のそばを走り去る間際、中尾くんが手の平で目元を拭うのが見えて、ズキンと胸が痛んだ。
私は、汐里だけじゃなくて中尾くんのことも傷付けた。手の中に握りしめたままの絆創膏のゴミがクシャリと小さく音を立てる。それを無造作にスカートのポケットに突っ込むと、私も汐里と中尾くんを追いかけた。
1階の廊下を走って教室階に繋がる階段のそばまで来ると、上のほうから男女の言い争う声が聞こえてきた。
「やめて! 離して!」
「汐里、話聞いて……」
「別れ話なんて、絶対聞かない!」
階段を駆け上がると、2階と3階の間の踊り場で、中尾くんに手首を掴まれた汐里が泣いていた。
中尾くんは汐里を宥めようとしているみたいだけど、そう簡単にうまくいくはずもない。どうすればいいのかわからず、階段の下からふたりのことを見上げていると、中尾くんが私の存在に気付いた。彼の視線が逸れたことで、汐里も階段下の私に気付く。