夢のはずなのに、何時間か前に中尾くんと交わした会話や触れた唇の感触が耳や肌に生々しく残っていて。涙が出そうだった。
頭が痛い。身体が痛い。だけど、一番胸が痛い。
ズキン、ズキンと波打つような痛みを堪えて布団の中で身体を丸める。そのとき、スカートの中で何かがカサリと音を立てたような気がした。
ポケットに手を突っ込むと、紙屑のようなものが入っている。取り出してみると、それは絆創膏を剥がしたあとのゴミだった。
これって──。ばっと起き上がってカーテンを開くと、汐里にケガの手当てを受けていた中尾くんが驚いたように振り返る。
「あ、吉崎さん」
「美弥、具合どう? 頭痛、大丈夫?」
「起こしてごめん。お大事にね」
中尾くんが、私を気遣うように他人行儀に笑いかけてくる。彼の眼差しからは、私に対する熱も切なさも全く感じられない。
でも、私は現実に中尾くんのケガの手当てをして、彼に抱きしめられてキスされた。そのことを、ここにいる中尾くんは知らない。
階段から落ちて意識を失う間際、あの瞬間まで戻ればいいと願ったのは私なのに。中尾くんが熱のこもった目で私を見つめることはもう二度とないのだ。そう思うと、切なさで胸が張り裂けそうだった。
「え、吉崎さん?」
「美弥、大丈夫? 泣くほど頭痛いの?」
中尾くんと汐里の焦った顔が少しずつぼやけていくのに気付いて、頬に手をあてる。
泣いているつもりなんてないのに、私の目からは勝手に涙が零れ落ちていた。