ベッドの上で茫然としていると、中尾くんがガサゴソと勝手に保健室の棚を漁り始めた。

「適当に消毒とー、あと絆創膏貼っときゃいっか」

 左腕から水滴こそ垂れていないけれど、中尾くんの独り言にも棚を漁る背中にも既視感がある。彼の背中を見つめていると、「わっ!」と悲鳴が聞こえてきて、棚から保健室の備品がガラガラーッと一斉に落ちてきた。

「うわ、最悪……」

 床にしゃがみ込んだ中尾くんが、頭を掻いて顔を顰める。
 消毒液や絆創膏の箱、包帯、脱脂綿など……、周囲に散らばった備品を掻き集めて救急箱の中に乱雑にぶち込む中尾くんの姿は、もう既視感なんてものではなかった。
 私は、これと全く同じ光景を何時間か前に目にしている。これは、私が中尾くんとキスする前に見た光景だ。

 ズキン、ズキンと波打つような痛みが頭を襲う。もしそうだとしたら、もうすぐ汐里が保健室にやってくる。
 ひとりで散らばった備品を片付けた中尾くんが棚の引き戸を閉めたとき、保健室のドアが静かに開いた。

「あれ、尚平がいる」

 カーテンの隙間から覗き見えた汐里が、中尾くんに嬉しそうな笑顔を向ける。そこにいる汐里は階段から落ちた様子なんて全くなかったし、傷付いた顔もしていない。普段どおりの、いつもの汐里だった。