歩道橋の階段を上りきり、ふと少女は足を止めた。

 時刻(とき)は暮れきるにはまだ幾分早い夕刻。
 赤らみだした空の色を受け、淡い水色のリボンを伴って濃紺のセーラーカラーがゆったりと風に翻る。


「……」


 たった今、自分の感覚に触れていった何かを追って、少女は宙を仰ぎ見た。

 だがそこに見出されるものは何もなく、彼女自身、それが見えるはずのないものであるという事はとうにわかりきっていた。

 あきらめたように視線を下ろし、手すりに沿ってゆっくりと歩き始める。


 眼下にはオレンジ色に照らされた街の喧騒。

 帰宅ラッシュに巻き込まれ、時折派手にクラクションを鳴らし合い通り過ぎて行く車の群れと、それには目もくれず両脇の歩道を足早に行き交う人間たち。

 そして、それらを覆い隠すように所狭しと建ち並び、常に無機的な印象を周囲に放って止まないビル群。

 その中に、まるで何かに置いて行かれたように取り残されたかのように点在する、街路樹の葉ずれの音が一瞬何よりも大きく響いた。


 歩道橋の中程にさしかかったところで立ち止まり、少女は学生鞄の上から手すりに両肘をつく。

 長い黒髪が、静かに風に舞った。