僕は昔から、なにごとにも無感動な子供だった。
 他の子供みたいに色々なことに興味を持つということもなく、人形を欲しがることもなかった。
 この星で一般的に子供の情操教育用に購入され、子供と共に育ち、十年ほどの寿命の後、最期大切な物を教えて命を終える自律式の人形。その鉱物を食べる人形を欲しがらない子供などいないと、みんなはいう。けれども僕は、その人形にすら興味がなかった。だから、僕の元に人形が来た時も、特に嬉しいとは思わなかった。
 僕のところに来た人形は、はじめ僕と同じように無感動でぎこちなく、僕のところに来たのは間違いだったのではないかと、ただそう思った。
 人形は人間と一緒に成長する。だから、僕の元に来た人形はずっと感情を持たないままなのだろうと思っていたのに、いつまでも無感動な僕と違って、人形はどんどん感情豊かに育っていった。その姿を見て、きっとこの人形は、僕よりもずっと人間らしいのだろうと思った。
 まだ子供だった僕は、その感情豊かになった人形と過ごして、楽しかったかどうかすらもわからなかった。毎日一緒に過ごして、食事の時も、僕と家族がごはんを食べる傍らで、一緒に辰砂などの赤い鉱物を食べている人形は、僕よりもしあわせそうに見えた。
 しあわせそうに見えたけれども、その人形をうらやましいと思うこともなかった。その時の僕は、ほんとうに、なにごとにも無感動だったのだ。
 無感動で、他人に興味がなくて、そんなわけだから、僕に友達なんかができるはずもない。そしてもちろん、友達がいないということすら、僕は気にしていなかった。
 そんな僕を見て、両親は心配していたのだと思う。もしかしたら、手を焼いてすらいたかもしれない。
 ひとりぼっちであることを意に介さない僕に、人形はよく構ってくれた。学校の勉強を人形と一緒に復習するというのは、そういった宿題が出されるのでやっていたけれども、それ以外に僕は、自分からどうやって人形と接すれば良いのかがわからなかった。
 それなのに、人形は飽きもせず、根気強く、僕のことを慈しんでくれた。そう、人形のオーナーは僕なのに、まるで僕のことを大切な宝物のように扱ってくれたのだ。
 ある日僕は思った。なんてしあわせなんだろう。
 なんで急にそう思ったのかはわからない。わからないけれども、僕は確実にそう感じたのだ。
 そのことを自覚してから数年、人形はあいかわらず僕のことを慈しんでくれていて、そうしているうちに、僕の心はようやく、すこしずつほどけていった。なぜあんなにも頑なだったのかは今でもわからない。けれども確実に、僕の心をほどいてくれたのは辰砂が大好きな、僕の人形なのだ。
 人形のおかげで、僕は色々なことに心動かされるようになって、それは良いことも悪いこともあったけれども、まるで生まれ変わったようだった。その姿を見てか、両親も少しだけ安心したように見えた。
 心が動くようになって、僕は人形に対する自分の気持ちに気づく。人形は人間の大切な友人だからとずっと思っていたけれども、僕が僕の人形に抱えている気持ちは、友人や家族とは違った好意だった。その気持ちはあまりにも輝かしくて眩しくて、ともすれば持て余してしまいそうだったけれども、その気持ちに気づいてから、僕の世界は一気に鮮やかになった。
 けれども、この気持ちを人形に伝えて良いのかどうか、僕は戸惑った。人形はあくまでも友人であって、人形に恋心を抱くのはおかしいことなのではないかと思ったし、一般的にもそういわれているからだ。
 それに、人形は僕のことを家族や友人のように思っている。そういった意味で好きでいてくれている人形に自分の気持ちを伝えて、嫌われるのがこわかった。今の関係が壊れてしまうのがこわかった。
 そんな悩みを抱えている僕に、人形はあいかわらず優しくしてくれて、慈しんでくれていた。それは嬉しいと同時に、どうしようもなくつらかった。
 そんな相反する気持ちを抱えたまま日々を過ごし、僕は人形と出会ってからの年数を数え、そろそろ寿命が近づいてきていることに気づいた。
 どうせもうすぐ寿命なのなら。そう思って、僕はさりげなく人形をおでかけに誘った。でかけた先で入ったのは、アクセサリーショップ。ここには色とりどりの耳飾りが置かれていて、僕は真っ赤な梅の花のイヤリングを買った。
 買い物のあと、喫茶店に入り、人形に耳飾りを渡す。耳飾りを渡すのは、恋人同士が永遠を誓う時にする儀式を真似たものだ。
 人形が真っ赤になって、永遠を誓うのは私じゃだめだと言う。けれども僕は、この人形に永遠を誓いたかった。
 その日家に帰り、人形は間もなく寿命を迎えた。最期を迎えた瞬間の、砕けた核の輝きは、今でも忘れられない。

 抜け殻になった人形は、寿命を迎えたあの瞬間から数年経った今でも、僕の部屋にいる。あの日人形が自分で身に着けた、赤い梅の花のイヤリングを、固いその耳に飾ったまま。