彼女はいつも、遠くを見ていた気がする。
 虚ろな瞳で、毎日つまらなさそうな顔をしていた。なぜそうなったのか気になって、彼女に話しかける。
「あの、いつも何を見ているの?」
 聞き方が間違っていたかもしれない。そう思った頃にはもう遅かった。彼女は一段と不機嫌そうな顔をする。
「それ、あなたに関係あるの?」
「ない。でも聞きたい」
「何それ、意味分かんない」
 ため息をついた彼女は、引かない僕を見て呆れていた。西日に目を向けながら、力の無い声で話し始める。
「何もない生活に、飽き飽きしてるの。あたしにはやりたい事なんて何もない。みんなが夢を見つける中、あたしはただ傍観しているだけ。それに焦ってる。それだけ」
 淡々と言いつつも、机の下で拳を握りしめていた。左手で頬杖を突きながら、右手に力を込めている。
「これが好き、って言うのはある?」
「うーん、特にないかな。強いて言うなら、こうやって景色を見てる時間が好きってくらい」
 それを聞いた時、一つ閃いた。彼女に提案を持ちかける。
「その景色、描いてみようよ」
「は?」
「景色が好きならさ、その景色にシャッターを切ってみない? それを描いて、一つ一つ残していくんだ。飽きたらやめればいいし、続けたいと思うまでやってみるのはどうかな」
 我ながらいい提案を思いついた。後は彼女が乗ってくれるかだけど……。
「……ちょっと、考えさせて」
 それだけ言って立ち去ろうとする。見送ろうとした時、ふと振り返った。
「明日、結論言うから。またここで」
 それだけ言って、去って行く。手汗を掻いていた事に、後から気づいた。