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翌日、いつも通りの昼食の時間を非常階段で過ごしている。
特に話題がなければお互い口も開かない沈黙が支配する穏やかな時間。
あまりにいつもと変わらない枢の様子に、昨日のことは夢だったのではないかと思い始めていた。
しかし……。
お弁当を食べ終え、枢が先に立ち上がった。
瀬那が食べ終わった弁当箱を片付けていると、目の前にチャリンと吊り下げられた鍵が目に映る。
「えっ?」
何かと不思議そうに枢を見上げる。
「俺の家の鍵だ。俺がまだ帰ってなかったら先に入ってろ。部屋は最上階だ」
「…………」
口を開けてポカンとして鍵を受け取ろうとしない瀬那に枢は焦れたのか、瀬那の手を取って無理矢理手のひらに乗せると非常階段から去って行った。
「……鍵……もらっちゃった……」
あの一条院枢の部屋の鍵を。
瀬那はハッとすると、きょろきょろ周囲を見回した。
この場面を誰かに見られていないだろうかと不安になって。
もし、誰かに見られでもしたらその日の内に学校内に話が駆け巡り、枢のファンに知られることになって、そして血の雨が降るかもしれない。
もちろん降るのは瀬那のだ。
なんて恐ろしいアイテムを渡してくるのかと、背筋が寒くなった。
「こんなものサラッと渡すなんて」
枢は何を考えているのか、やはり枢という存在は瀬那には理解しがたい。
けれど、手の中にある冷たい感触は、昨日の話が夢ではなく現実のことだったと瀬那に教えてくれる。
「本当にいいのかな……?」
好きな人というのはどうしたのか。
勘違いされても知らないぞ、と悪態をつきつつ、瀬那の口元は小さく笑っていた。