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 明日からゴールデンウィーク。


 日曜日には一条院主催のパーティーがあるので、明日はゆっくり家で過ごそうと考えていた瀬那。

 そこへ兄の歩が帰ってきた。
 普段夜中の帰りになることも多い歩の、いつもより早い帰りに驚く。



「瀬那、明日引っ越しするぞー!」

「……は?」



 帰ってきて早々に何をほざいているのか。
 酔っ払っているのかと訝しげに兄を見る。

 しかし、そんな様子もないしお酒の匂いもしない。



「何言ってるのお兄ちゃん。仕事が忙しすぎて脳みそ沸いた?」

「仕事の忙しさは激ヤバだが、俺はいたって正常だ。
 前に瀬那がこんな所住んでみたいって言ってた最近建った高級マンションあるだろ?」

「マンションの中にジムとかプールとかあって、常駐してるコンシェルジュがホテル並みのサービスしてくれるっていう?」

「あのマンションに引っ越しだぞ」

「マジ?」

「大マジだ。お兄ちゃんは嘘吐かないぞ。
 あそこなら瀬那の学校にも近くなるし最高だろう?」

「いや、まあ、そうだけど」



 最新設備が充実していて、以前にテレビで紹介されていて、こんな所に住んでみたいなぁと何の気なしに呟いた高級マンション。

 でもそれは本気で住みたいとかではなくて、あくまで憧れのような現実的ではない話だった。


 まさか本当に引っ越しするとは夢にも思っていない。