夢を見た。とても幸せで、満たされていた女学校時代。全てのものが新しくて、そして、眩しい。そんな時代に、私は生きていた――――。



『わあ、この振袖と帯、とても素敵だわ! ……これを、私に……?』

女の目の前には豪奢な薔薇柄の振袖一式。呉服屋の店内で見せられたそれを食い入るように見つめる女に、男ははにかみながら言った。

『ああ、君に贈りたい。そして、俺と……結婚して欲しい』

歓喜に胸が震える。自分は間違いなくこの人と歩んでいくんだと信じてた、あの時……。



『お父様、どうしてなのですか? 私は、あの方と……!』

『ならん! お前には嫁いでもらう先がある。今後一切、彼のことは忘れなさい』

厳しい顔のままの父の前に、さめざめと泣いたあの夜……。



今も鮮やかに蘇る、糸の切れた凧のような軌跡を描いた彼との恋路。思い返しても、辛く、悲しい思い出。それが、『私』の夢の中に去来した。