ひやりとした空気が、肌をきゅっと引き締める。いつのまにか、秋風が揺らす葉ずれの音が物悲しく響く夕刻となっていた。

 まずは約束通り、松雪からの質問に柳が答えた。

「あんたが言った通り、俺、学校では別人格で過ごしてる。今、ここにいる俺が、素の俺だよ」

「えーと、それはつまり、私が知ってる怖い柳くんが偽者ってこと?」

 オレンジ色の夕光に染まった神社の境内で、松雪は小さく聞き返す。依然、布マスクを装着したままだから、強風でも吹けば聞き取りにくい音量だ。

 が、もそもそと話しているにもかかわらず、意外にも軽やかな声音を持つ松雪であったから会話に支障はない。

「ははっ。怖い、か……そう見えてたなら悪かったけど。そっちが偽者なのは合ってるよ。自己チューで他人に興味ない。誰かのために動くなんてとんでもないと思ってる、冷たくて極度の面倒くさがり。それが、俺が作った『もうひとりの柳』だ」

「あぁ、だから『無理。だるい。面倒くさい』なんだ」

「よく知ってるじゃん。俺の口癖。その三つは連呼すると便利なんだ。皆が勝手に〝柳って、こんなヤツ〟って思い込んでくれる」

「ふーん。じゃあ、その口癖も学校限定なんだね。今の柳くんの働きぶりを見てたら納得だけど」 

「だろ? 俺、働き者だろ? 宮司の息子としての責務を立派に果たしてるこの姿が、真の俺ってわけ。髪色は真っピンクだけどな」

 手にした竹帚で境内を綺麗に掃き清めつつ、その作業が先代の宮司である祖母から課されたものであること。いずれは自分も神職となるつもりでいるが、高校を卒業するまでは頭髪を染めることを許してもらっていることを、柳は順に松雪に説明していた。

 髪の染め色を鮮やかなピンクにしている理由も、もちろん忘れずに。

「俺さ、地毛の色、黒じゃねーんだ。かなり明るめの金茶色。家族の中で俺だけが色素が薄いんだよ。そのことで、ガキの頃から嫌な思いばっかしてきてさ。我慢も限界でブチ切れた。『真面目にしてても絡まれるなら、いっそド派手にピンク髪にしてやる!』って。で、ついでに外面《そとづら》用のキャラ作ったら絡まれる回数も減ったから、高校卒業までこれでいくって決めたんだ」

 実際の柳は、おばあちゃん大好き。おばあちゃんっ子。

 祖母に言いつけられた境内の清掃を一日も欠かさず続けているし、特にお年寄りと子どもには親切な心優しい人柄であるから、自己チューキャラが重荷になってることも時にはあるが、冷たく突き放したクラスメイトにさりげなくフォローを入れることでプラマイゼロとしている。

「俺の告白は、これで終了。今度は松雪さんの番だよ。三つ編みの謎、プリーズ」    

「この三つ編みは、ヘアピースなの。私ね、白髪があるのよ。すごくたくさん。小学二年生から若白髪で、それを隠したくてプライベートでは帽子とヘアピースが必須でね。学校で帽子生活は無理だから超《スーパー》ベリーショートなんだけど、あっ、もちろん真っ黒に白髪染めしてるのよ。短くしてるのは、染髪が楽だから。でもやっぱり誰にもバレたくないから、伊達眼鏡とマスクで顔を隠して気配を消すことで皆の視線を避けてるの。――はい、これで私の告白は終わりです」

「え……」

 柳、本日二度目の絶句。