その日の夜。自宅に帰る気もなれず美希に電話をする。
話だけでも聞いて欲しかったからだ。
 快く受け入れてくれたので、申し訳ないと思いつつもコンビニでビールを買って美希の自宅に行く。

「ごめんね。またお邪魔しちゃって」

「いいわよ。菜々子が結婚したら、なかなか出来なくなっちゃうし。ご飯は、食べたの?」

「ううん。まだ……」

「どうしたの?元気がないわね。電話の時も感じたけど」

 私は、自宅にあがらしてもらう。
夕食をご馳走になりながら美希と旦那さんに理由を話した。する2人してかなり驚かれた。
 驚くのも無理はない。私もかなり驚いたから……。

「えぇっ!?そんな偶然ってあるの?
いや、その前にどうするのよ!?あんた……」

「うん……もちろん断るつもりよ!
つもりなんだけど……」

 心が揺らぐ自分が居る。
ダメだと分かっているのに……何処か迷っている。

「迷っているだね……?」

 旦那さんが指摘してくる。私は、静かに頷いた。
するとバンッとテーブルを叩いたのは、美希だった。

「迷ってたらダメよ。あんたは、課長と結婚して家庭を築きたいんでしょ!?
なら、そのまま式を挙げるべきじゃない」

美希……。

「美希。君の意見もよく分かるけど彼女の気持ちを考えると複雑なのは、仕方がないことじゃないか?
 誰だって自分の好きなものに対して熱くなったり、譲れないものだってあるだろ?
 菜々子さんにとってずっと譲れないものが目の前に来るとなると動揺したり、決断が鈍るものだと思うよ。
 それがレアの物ならなおさらだ」