まるで脱け殻だ。こんな気持ちで稲葉先輩と居ても
相手に失礼過ぎる。別れよう……気持ちを伝えて
自分で蹴りをつけないと前に進めない。
そう思い立ち上がろうとした。しかし、その時だった。
「……夏希?」
えっ……?聞き慣れた声に慌てて振り返ると社長だった。
ど、どうして……ここに!?
すると社長に抱っこされている女の子が目に映った。
写真で見たことがある……娘の樹里ちゃんだ!!
「このお姉ちゃん……だぁれ?」
きょとんと見ている小さな女の子は、写真で見るよりも
何処となく社長にも似ていて可愛らしかった。
なおさら胸がスギッと痛みだした。
まさか、こんなところ遭遇するなんて。
しかも子連れで……。
すると社長は、ジロッと私を睨み付けた。
「夏希。お前……まさか。
あの稲葉って奴と別れもせずにデートをしていたのではないだろうな?」
「それは……」
どう説明するか悩んでいると抱っこをしていた樹里ちゃんが
「あっママだ!」と嬉しそうに言ってきた。
えっ……?
見ると凄く綺麗な女性がこちらに来た。
「あら、もしかしてお邪魔だった?会社の……方かしら?」
ニコッと私を見て微笑んできた。
まさかの奥さんの登場に驚いてしまった。
この人が、樹里ちゃんの母親で正真正銘の社長の奥さん!?
黒髪でスラッとした凄く綺麗な女性だった。
何処かの社長令嬢だったのだろうか?
そう思わせるような気品さもあった。か、勝てない……。