そもそも何でこんな状況になっている訳なの?
夕食を食べた後、耳掃除してと頼まれて……。
 私の意見も聞かずに無理やり座らせると太ももに転がり込んできた。

「社長…こういうのは、奥さんにしてもらって下さい」

 私は、イライラしながら社長に文句を言った。
だが、いつの間にやら社長は、スヤスヤと眠っているじゃないか。
 ちょっと話ぐらい聞いて下さいよ!!というか寝るの早っ!?

「もう………」

 この状況をどうしろというのよ。
ハァッ……とため息を吐きながら社長をジッと見つめる。
 気持ちよさそうに眠っていた。
本当に近くで見ると綺麗な顔立ちをしている。
 黙っているとかなりのイケメンなのに……。

 彼の髪を触れるとサラサラで触り心地がいい。
何だか胸がキュンとなった。
 だけど、すぐに現実に連れ戻された。
社長の左手の薬指に見える結婚指輪が私の視界に入ったからだ。

「………」

 何とも言えない切ない気持ちになった。
どうしてこの人は、既婚者なのだろう?
 既婚者では無かったらどんなにいいか。
本来の結婚指輪とは、愛を誓い合った者同士がつける幸せの証。女性の憧れだ!

 なのに…私から見たら社長のつけている結婚指輪は、重い手錠に見えた。
 あんなの無くなってしまえばいいのに……と
自分勝手ながらも思ってしまう。
 この人は、今も私の目の前でスヤスヤと眠っている。
こんなに近くに居るのに……遠い。

「……社長……」

 思わず社長の名前を呟いた。何故、独身ではないの?
独身だったらもっと素直になれたかも知れないのに。
 これ以上……触れて欲しくないから必死で
自分の気持ちに蓋をしているのに

 社長は、自らの手でこじ開けて入って来てしまう。
いとも簡単に……。
 本当に……自分勝手でマイペースな人だ。……苦しい。
涙が出るほど、苦しいの。

 だからお願い………もうこれ以上私の心を惑わさないでほしい。
涙を必死に隠すように拭き深く深呼吸をした。
 このまま寝かせていてはダメ。風邪を引くし、よくないわよね。