「えっ?今……なんて?」

思わず聞き返してしまった。私の聞き間違い……?

「うん?そんなに嫌なら新堂と別れて俺と付き合う?って言ったんだよ」

 にこやかとまた言ってきた。
田所様の発言に硬直してしまう。
 今、俺と付き合うと言ったわよね?それって…えぇっ!?

私は、思わずテンパってしまった。
 しかし田所様は、そんな私を見てクスクスと笑ってきた。

「アハハッ…冗談だよ!
そんな事したら新堂に殺されてしまうから」

 な、何だ嘘か……。驚いてしまったではないか。
もう……思いながらホッと胸を撫で下ろした。
 いやいや……残念がらなくてどうするの?
せっかくのイケメンの独身なのに。でも、社長の顔が頭から離れない。

「興味を持ったのは、本当だ。
 新堂より先に俺が見つけていたら間違いなく
交際を申し込んだのにとても残念だよ!」

「もう田所様ったら……また冗談ですか?」

「……さぁ、どうだろうね?」

 疑う私に田所様は、からかうように笑っていた。
本当……掴み所がない性格だ。
 嘘か本気なのか分かったものではない。
グイッとカクテルを飲み干す。
 田所様も社長も人をからかってばかりだ!

「でもさ。そんなに嫌なら転職とか考えないの?
普通からセクハラが嫌で辞める子も居るよ?」

 うっ……鋭いツッコミに息を呑んだ。
確かにそうなのだ。そんなに嫌なら転職とか考えるべきなのだろう。
 私も考えたことはあった。
しかし親の期待や無理をさせてまで行かせてもらったからには、最後までやりたいし。
それに……。

「……あまり腹が立った時に社長に辞めてやると
伝えたことがあるんです。
 そうしたら私が辞めるなら自分も会社をたたんで
一緒に再就職するとか散々泣きつかれたことがありまして……」

あれは、大変だった。
 再就職について来られたら辞めた意味はないし
喧嘩になるとしばらく、いじけて仕事をしてくれなくて
仕方がなく私が折れることになった。