「あぁ、式を挙げた時も出来るだけあいつに知らせないように隠していた。
まだ俺が結婚しているとは、知らないはずだ!
一緒に居たら気づかれてしまう。なるべく、それを避けたいからな」
社長……。こんな事、初めてなので不安になってきた。
すると社長がニコッと笑うと棗に小さくて可愛らしいクマのぬいぐるみを渡してきた。
棗は、興味津々と見ていた。
「ワンワ……」
「ワンワではないぞ、クマさんだ。こうやってノシノシ歩くんだぞ~」
そう言いぬいぐるみで歩く真似をすると棗は、キャッキャッと喜んでいた。
渡すとギュッと握り締める。
「良かったわねぇ~棗。これ会社の新製品ですか?」
「あぁ、まだ試作品だが……きっと役に立つぞ!」
そう言うと社長は、ニヤリと笑った。
役に立つ…?どういう意味だろうか?
「いいか?絶対にママとこのぬいぐるみを離したらダメだぞ?
じゃあ、行ってくる。棗。またなぁ~」
棗の頭を撫でると荷物を持って会社に行ってしまった。
意味の分からない棗は、機嫌よくぬいぐるみを振り回していた。
行っちゃった……。
「早くパパ帰って来るといいでちゅねぇ~」
あやしながら自宅に入って行く。
社長が居なくて心細くもあるが、どんな人なのか
よく分からないためあまり危機感が持てなかった。
まぁ、私の存在を知らないみたいだし
大人しくしていたら会う事もないだろう。そう悠長に考えていた。
だが、その考えは甘かったようだった。
私は、その後に普通に家事をしながら過ごし
お昼過ぎになると買い物と散歩に行くために棗をベビーカーに乗せた。
「天気がいいわねぇ~お散歩日和でちゅね」
そう言いながら、歩いているとサングラスをかけた金髪の男性が
前に立ちはだかってきた。
誰……?変な男に警戒する。