コーヒーのドリップ待ちをしているとき、視界に映り込む景色を見て、今日は朝から散々な出だしだとため息一つついた。
「陽太(ようた)も早く学校行く準備しなさい。あなた今年受験生でしょ」
「あー、分かってるって!」
「分かってるならちゃんとしなさい!」
四つ下の弟の陽太は今年中学三年生。
そのせいで母さんは少しカリカリしている。
……その原因は、多分俺だ。
俺が現実から目を逸らして、三流大学などに進学してから母さんは俺を見ようともしなくなった。
俺には何も期待するものがないからと、諦めたのかもしれない。
その代わりに弟の陽太を気にしては小言を言ったり注意をしたり、俺にはしなかったものを全て陽太に注いだ。
陽太もまた受験生というプレッシャーのせいで、いつも以上に気が立っているようで。
だけどそれを見ているだけで何も助けてやることができない情けない、ダメな兄。
いや、違うか。
陽太は俺のことを兄なんて思っていない。
同じ屋根の下に住む、ただの同居人くらいにしか思っていないのかもしれない。
俺は、今まで兄らしいことなんて一つもしてきてないし、むしろそれ以上にダメなところばかりを見られていたのだから。
まだ陽太が六歳くらいのときは俺の後ろを『兄ちゃん、兄ちゃん』と呼んでついて来た。
すごく可愛くて俺も弟のことを可愛がっていた気がする。
だけど、それは小学二年にあがるとピタリとなくなった。