「これで店内の修理と騒がせた客に美味しいディナーを無料でサービスしてやってくれ」

  そしてチラッと私の方を見てきた。
ビクッと肩を震わせる。

「上紗さん。悪いが帰るぞ」

「は、はい」

 急に名前を呼ばれたので慌てて返事した。
そして混乱の中を通り鬼龍院さんの後ろを追いかけた。
 ビクビクと怯えながら一緒にエレベーターに乗り込んだ。
心臓は、まだドキドキと高鳴ってうるさい。
 ドキドキと言っても一緒に居られるドキドキよりも恐怖で震えている方に近い。

 鬼龍院さんに対して怖いと思ったのは、ショッピングモールのとき以来だ。
 いやいや。あの時は、警備員が来たり、その後に坂下君と鬼龍院さんのやり取りで結局うやむやになった。
 でも……今回は違う。

「上紗さん……」

「えっ?は、はい」

 名前を呼ばれたので慌てて返事した。
するといきなり鬼龍院さんに抱き締められてしまう。
 私は、それに驚いてしまった。

いきなり抱き締められたのでドキッとした。
 だが、あの恐怖を思い出してしまい思わずドンッと突き放してしまった。そんなつもりはないのに……。
 鬼龍院さんは、私に突き放され酷く傷ついた表情になっていた。
 その表情に胸がズキッと痛んだ。

「あの……すみません……」

「……ごめん。突然……怖かったよね?怪我とかない?」

「は、はい。大丈夫です……」

 私は、そう答えた。
よく見ると鬼龍院さんの頬から血が垂れていた。
 きっと避けた時にでも拳銃の玉がかすったのだろう。
痛そう……。
 私は、急いでカバンからハンカチを取り出すと鬼龍院さんに差し出した。