あの後すぐに外に出て彼の姿を捜したが結局見つからず、リリカは一先ずお昼を済ませてから、カウンター上の懐中時計をじっと見下ろしていた。
 ちなみに今日のお昼は近所の行きつけの魔法のお弁当屋さんで買ってきた《普通の》サンドイッチだ。魔法仕掛けのピカピカ光るサンドイッチは子供向けだからリリカはいつも《普通の》サンドイッチを買う。ピゲも使い魔の猫用ハムサンドを食べた。

「これ、本当に魔法掛かってるの?」

 ピゲは懐中時計をくんくんと嗅いでから仏頂面のリリカを見上げた。

「一応、試してみるか」
「魔法を?」
「なわけないでしょ」
「だよね……」

 リリカは長い黒髪を一纏めにしてから懐中時計を手に作業机に移動した。
 椅子に座るとリリカの職人スイッチが入る。
 懐中時計の側面をぐるっと見てその場所を見つけたらしいリリカは「こじ開け」と呼ばれる専用工具を手に取り、見つけた隙間にそのヘラ先を差し込む。それを押し上げれば大抵の時計はパカっと裏蓋が外れるのだが、どうやら外れないらしくリリカの顔がどんどん赤くなっていくのをピゲは見ていた。

「やっぱり無理そう?」
「~~、なんで時計に魔法なんか掛けるのよ!」

 リリカは勢いよく立ち上がって髪をするりと解いた。……早々に諦めたらしい。

「また来るって言ってたわよね、あのお客」
「言ってたね。いつかは言わなかったけど」
「次来たら絶対文句言って突き返してやるんだから!」

 金の懐中時計をカウンターの引き出しに仕舞おうとしているリリカにピゲは声を掛ける。

「でもさ、気にならない?」
「何が」
「なんのために時計に魔法なんか掛けたのかって」

 するとリリカは一瞬だけ引き出しを閉めようとしていた手を止めた。

「……そりゃ、ちょっとは気になるけど」
「なら」
「だーけーど! 私は時計修理に魔法は絶対使いません!」

 パタンと引き出しを閉めてしまったリリカにピゲは半眼になる。

「頑固」
「じぃじ譲りのね!」
「掃除とか洗濯は全部魔法で楽するくせに」
「折角の才能ですから?」
「意地っ張り!」
「なによ、やたら突っかかってくるじゃない。そんなに気になる?」
「気になるよ! それにあのお客お金持ちそうだったし。直してあげたらいっぱいお金もらえるかもだよ?」
「私はああいうヘラヘラした人は苦手。何か裏がありそうで嫌な感じ」

 ……それは、ピゲも否定できなかった。


 結局その日その男性客は現れず、別のお客から預かっていた時計修理を全て終わらせて、リリカとピゲは店の二階の寝室で眠りについた。

 ――その夜、ちょっとした事件が起きた。