「プライドって言いましたが」
「え?」

 カウンター上で羊皮紙に魔法陣を書いたり必要な道具を揃えたりと魔法の準備をしながらリリカが口を開くと、興味深そうにその様子を眺めていた彼は顔を上げた。

「私、時計職人のプライドって言いましたよね、魔法を使わない理由」
「あぁ」
「あれ、半分嘘でした」
「え?」

 彼が目を瞬く。

「もう半分は、私の意地なんです」
「意地?」

 リリカは苦笑しながら頷いた。

「私の両親は昔から魔女の才能のあった私に本当に期待していて、魔法学校を卒業するときに良い就職先からのスカウトを全部蹴って時計職人になることを選んだ私に『この親不孝者が! 魔法の才能しかないお前が時計職人になどなれるはずがない』って酷く怒って、あげく私勘当されちゃいまして」
「それで、魔法を使わないように?」
「はい。魔法を使わなくても、じぃじみたいな一流の時計職人になってみせるって、私の意地です」

「でもなんで、この魔法通りに店を出したんだい?」
「あー……」

 もっともな問いだった。リリカはその理由も恥ずかしそうに話していく。

「実は、一番安かったんです。この通りは魔法使いだと何かと優遇されるので」

 ピゲはリリカがこの話を他人にするところを初めて見た。

「当時、勘当された直後で私お金が全然なくて」
「そういうことか」

 彼は納得したように頷いた。

「……私は、どうしても時計職人になりたかったんです。じぃじのような魔法使いみたいな時計職人に」

 優しい顔つきで続けたリリカの声をピゲは心地よく聞いていた。――じぃじの話をするときのリリカの声がピゲは一番好きだ。

「魔法使いみたいな?」
「じぃじは魔法使いではありませんでしたが、時計を修理しているときのじぃじは本物の魔法使いよりも魔法使いみたいでした」

 誇らしげにはにかんだリリカに彼は目を細め言った。

「君はもう、おじいさんのような一流の時計職人になれているじゃないか」
「え?」
「前にあのご婦人も言っていただろう。『流石、ウェルガーさんのお孫さんね』と。あれはそういう意味だろう?」

 リリカの驚いた顔が徐々に嬉しそうに緩んでいく。

「そうだと、いいです」