「貴方の望むものを叶える代わりに、お客様の今、一番大事な物を頂戴致します。つまり、代償を払わなければなりません。一年以内の使用であれば返品可能ですが交換できる物は一生に一つのみとなっております。また、交換されて返品した場合でも二度と "晴れ" を交換することができません」


どうやら "晴れ" というのは私達の気持ちが晴れるモノのことを指しているらしい。


クラスメイトの寶崎(ほうざき) 亜依霧(あいむ)さんは契約書のようなものを慣れた手つきで引き出しから取り出した後、それを淡々と読み始めた。

そのよく通る澄んだ声を聞きながら、彼女の隣にいる男子を盗み見る。


この人がムルディストと噂されているマスターか。

想像していた以上に普通の人で、ムルディストのような特徴はどこにもない。

まあ、先ほどから一言も口を利かないし、無愛想ではあるけれど。

死んだ表情のマスターは、何やら得体の知れない、鏡のような輝いた光を放つ器を磨いている。

そこに透明なドロドロとした液体を流し込んでいく彼の行動は不思議な儀式に見える。


それにしても、彼が意外にも若いことに驚いた。年齢は、たぶん大学生くらい。

マスター、って聞いたから、てっきり、どんなに若くても三十路くらいかと思っていた。

もしかしたら高校生なのかもしれない。そう感じるほど若い。

大人びて見えるけれど、顔にはまだ幼さが残っているようだ。


それに、驚くほどお似合いの二人。

芸能人に見間違う程に寶崎さんと彼は端正な顔立ちをしている。

二人ともヨーロッパ系の血が入っているのではないかと疑うくらい色が白く、瞳の色素も薄く、スタイルも抜群だ。

背丈の差もちょうど良いような気がする。



店内は、映画で見るような魔法のバーみたいな感じで面白い造りになっているし、驚きの連続なのだけれど、そんなことより、何よりも驚きを隠せなかったのは寶崎さんがこの晴れ交換店でアルバイトをしていたということ。

しかもここまでの道のりを案内されていた際に聞けば、ここのお店に住み込み、という話みたい。

本当に何が何だか、って感じだ。

まあ、そもそも普段からクラスで寡黙を貫く彼女のことを知ろうとしても、無理があるのだけれど。