その国は砂漠に覆われた小さな国であった。

石造りの家が所狭しとあり、天幕のはられた小さな店舗が街の道に沿って並んでいる。

強い日差しは人の肌をこがすように強く、乾いた大地では植物がまともに育たなかった。

街の外にある砂漠から入り込んだ砂が風に舞い、生ぬるい大気が道を通っていた。

人々で賑わい、先へと進むのが困難な街の一角では艶やか林檎を売る出店があった。

その店の店主は目くじらを立てて、店の前に立つ外套を羽織った小柄な人物に向かって怒号をあげていた。

それに対して外套を羽織った人物はフードを外し、乱れた長い髪を首を振って整える。


店主の怒号に動じることのない少女は眉間に皺を寄せながらじろりと店主を睨みつける。

赤茶色をした瞳は軽蔑の色を浮かべており、その瞳に店主は一瞬だけたじろいでしまう。

だがすぐに気を取り直し、少女を指さしながらグチグチを怒りをぶつけてきていた。

少女は大きくため息をつき、ようやく口を開く。


「おじさん、理由はよくわかんないけど女の人殴ったらだめだよ」


店主の横には頬に痣を作り、地面に倒れこむやせ細った女がいた。

女の手の甲には刃物で傷を付け入れ墨があった。

ギザギザとした印象を与える十字架をモチーフにした奴隷に刻まれる文様であった。

女はびくびくと震え、自身の身体を抱きしめながら店主を見つめている。

それに気づいた店主は再び女を蹴り飛ばし、唾を吐きながらまわりに当たり散らした。


「これはわしの奴隷だ! どう扱おうがわしの自由だ!」

「きゃっ!」


そう言って店主は少女の手首をつかみ、反対の手を勢いよく振り上げる。

殴られることを察した少女は固く目を瞑り、その痛みがくるのを待っていた。



だがいつまで経っても拳は降りてこなかった。

おそるおそる目を開くと、そこにはよく見知った顔の男が店主の拳を受け止めており、捻るように握りしめていた。