雨が降っていた。

人が行き交う街にある路地裏で、一つの命が終わりを告げようとしていた。

やせ細り骨の浮き出た身体をした幼い少女が仰向けに倒れていた。

泥水に身体をつけ、汚れ切った布をまとっている。

空から落ちてくる雫が少女の身体を濡らしていくが、もう少女には身体を起こす力が残されていなかった。


路地裏の外からは街の賑わう声が聞こえてくる。

ここで誰にも看取られる事なく、静かに消えていくのだと悟った少女は目を閉じる。

身体が泥水に沈んでいくような感覚がした。


近くで水たまりを踏む足音が聞こえた。

その音は徐々に近づいてきて、少女の横までくると止まる。

少女の身体を影が覆い、雨を遮る。

ゆっくりと重たい瞼を開くと、外套を纏った男が少女を覗き込むように隣に立っているのが見えた。

外套の隙間から見えるマット系の明るい金の髪をしている。

宝石のように美しい翠眼が少女を見下ろしていた。


「生きたいか」


男は少女に問いかける。

その言葉を聞き、少女の中に吐き出したくなるくらいの恐怖が芽生えた。


これまで生き抜くために盗みを繰り返してきた。

もがいてもがいてもがいて……もがき続けて生きてきた。

そんな生き方をしてきた少女はついに力尽き、ここで命を終えようとしていた。

なんのために生まれてきたのか。

何も見出せないまま本能のままに生きてきた。

いざ死を突き付けられると、少女は恐ろしく感じ、涙が零れた。

乾いた唇を開き、少女は男を見つめると出せる精一杯の声で思いの丈を叫んだ。



「……っ死にたくない!!!」


特に理由はなかった。

ただただ少女の本能が生きたいと叫んでいた。

力いっぱい叫んだためか、少女の身体にはもう力も入らず、泥水に深く身体を沈み込ませた。

重たい瞼を閉じると身体から力が抜けていくような感覚があった。

そんな少女の叫びを耳にした男は手を伸ばし、泥水に浸かった少女の上半身を抱き上げる。

こけた頬に指を滑らせ、土によごれた頬を親指で拭う。

小さな声で男は「わかった」というと少女の唇にそっと自身の唇を重ねる。

その瞬間、少女の身体が淡く光り出し、光の粒が少女を包み込む。

唇が離れるとその光が消えたのであった。

光が消えると同時に、少女に眠気が襲いかかる。

瞼をおろしていくとき、少女の目に男の美しい妖艶な笑みが焼きつくのであった。