教室の前で自然と足が止まる。

いろいろな人たちが会話している声が聞こえ、いろいろな騒音も混じっているのに、私だけ別の世界に飛ばされたような感覚に陥る。

何も気にせずに教室内に入れば良いのに、思うように足が動いてくれない。

どうしよう、このまま保健室にでも行ってしまおうか。

やっぱり怖くて教室に入ることができないと正直に碓井先生に言ってしまおうか。

…それはバカにされそうだから絶対にやめよう。

教室の前で動けないでいると、後ろから肩を叩かれた。

振り返ってみると、そこには見た目からしてお嬢様という雰囲気が醸し出されている女の子が立っていた。


「あの、あなたこのクラスの人?」


とても優しい声音の持ち主だなぁ、と思いつつ、小さく頷いた。


「良かった。あっ、私、西條結花です」

「あっ、羽瀬伊織です…」


西條結花ってこの人だったのか。

名前は知っていたし、古田玲央から何度も写真は見せられていたけれど、実際に見たのは初めてだった。


「うちのクラスに何か用、ですか?」

「古田くんに用事が…って敬語つかわなくて良いよ。同じ年でしょ?」

「まぁ…じゃあ、タメ口で」

「うん」


とても嬉しそうな表情を見せる西條さん。

きっと、素直で優しい人なのだろう。

私がひねくれていなければ、昔のままだったら友達になりたいと思っていたかもしれない。


「ちょっと待ってね」


自分が自然と教室内を見渡し、古田玲央がいるか探していることに気付きもしなかった。

我に返り、自分の行動に少しだけ驚いた。

そうか。私は少し考えすぎていただけなのかもしれない。

教室内を見渡したけれど、古田玲央は見当たらなかった。

彼の席にカバンがかけられているので、学校には来ているようだ。


「羽瀬さん、良かったら一緒に探してくれない?」

「えっ?」

「チャイムが鳴るまでで良いの。古田くんと面識はあるんだけど、その…ちょっと自信がなくて」

「自信?」

「…あまり顔を覚えていなくて」


申し訳なさそうに俯いた西條さんに対し、私はプッと吹き出してしまった。

顔を覚えられていないと知ったら、古田玲央は落ち込むだろうな。さすがに可哀想だから言わないけれども。

私は西條さんのお願いを快く引き受けた。

自分の席にカバンを置き、すぐに教室内を出ていく。

木下穂乃香がすれ違いざまに何か言ってきたようだったが、私は聞こえないフリをしてそのまま教室を後にした。