「ところで先日、我が『劇団キョンシー』は、紳志(しんし)新聞社様主催・第四十五回『紳志演劇大賞』で、作品賞と男優賞をいただきました!」
 終演後のカーテンコールでヒロイン役の女優がそう切り出すと、客席からは受賞を祝う惜しみない拍手が送られた。
「そこで本日は、劇団主宰者である黒柳(くろやなぎ)から、みなさまへ感謝の言葉を述べさせていただきたいと思います!」
 女優がそう告げると、拍手はよりいっそう盛大なものとなり、「ナイトさああん!」「団長~!」という若い女性客の声が劇場内にこだました。
 やがてステージに衣装姿のままの男性が現れると、件の客たちは悲鳴然としたより短い言葉で興奮を口にし、彼が話し始める仕草をみせるや、今度は水を打ったように静まり返る。
「えー、本日はご来場いただき、誠にありがとうございます。劇団キョンシー主宰の黒柳騎夜(くろやなぎないと)です。このたびまた、僕らの舞台が賞をいただく運びになりました。それもこれも、こうして僕らの舞台を観にきてくださるみなさんのおかげです。
 ……えー、こういった機会にはですね、僕は必ず、とあるお話をすることにしています。だから、もう何度もこの話を聞いたことがある方も、中にはいらっしゃると思います。まあそういった方はね、あれです、元気に合いの手を入れていただければですね、盛り下がらずに済みます。合いの手。分かりますよね」
 黒柳が穏やかな口調で問うと、客席からは「はーい!」という、要望通り元気な返事が飛ぶ。
「OKです。OK。日に日に合いの手を打ってくださる方が増えてきているように思います。ありがたいことです。
 ――さて、世の中には、顔に『役名』を貼りつけた者たちがいます。目を閉じると見えてくるのです。短冊のような縦長の紙の上に、なんらかの『役名』が。
 役名はいろいろあります。それの最後には必ず『者』――『土』『ノ』『日』と書く『者』という字がついていて……たとえば【医者】【挑戦者】【反逆者】【失踪者】【捜索者】。はたまた【うっかり者】【よそ者】【悪者】【正直者】【人気者】と、実に様々な役名があります。
 ここだけの話ですが、僕もそういった『役名』を顔に貼りつけている人間の一人なんです。
 だから僕は劇団を立ち上げ、仲間たち――『役名』を持つ仲間たちですね――を、集めて、こうして演劇をすることにしました。舞台の上では、みな存分に自らの役を演じることができるのです。
 ところで、僕の顔に貼られている役名は、いったいなんだと思いますか? みなさん、なんだと思いますか?」
 黒柳が客席に問うと、常連客の女性たちは息をぴったり合わせ、「よっ! 千両役者ぁ~!」と合いの手を入れる。
「ありがとうございます、ありがとうございます。はい、確かに僕は『役者』です。でも今この場所で、みなさんの前でふと目を閉じると、それとは別の『役名』が浮かんでくるのです。なぜなら……今日もこうして、たくさんの方々の前で舞台に立ち、受賞の際にはみなさんから直接祝福していただける……、そうです、僕の顔に貼られた、短冊のような紙の上には、たった一言、こう書かれています。

 ――『あなたは【幸せ者】です。』と。

 みなさん、本日はご来場・ご観劇、誠にありがとうございました!」