今日はここに泊まるつもりだという雨香を無理やり引っ張って家に連れ帰ってきた。灯台の鍵はお守り代わりに唯一向こうに持っていっていたらしく、今日はまだ高校の近くに借りたアパートに入れないから、灯台で一夜を明かすつもりだったとほざく雨香の頭を軽く小突く。

水守の家の鍵を渡そうと思ったのだけれど、今預けると電気もガスも水道も止まっているのに中で過ごすと言いかねないから、それは追々ということにして。

わざわざ灯台まで運んできていたボストンバッグをかわりに持ち、家に向かうまでの道中に、雨香があっと思い出したように声を上げる。


「この辺りでアルバイトの募集ってしてない?」

「アルバイトぉ? この辺は店がそもそもないからな。高校の近くならコンビニとかファミレス……ファーストフード店もあるけど、学生がめちゃくちゃ多い」


触れるべきか迷ったのだけれど、この町に戻ってきたということは、過去の雨香を知っている、覚えている人が少なからずいるということ。アパートは高校の近くに借りるのに、アルバイトはこの辺りで探そうとするのは、どちらが良いとは言えないだろう。とどのつまり、どこにいても雨香は誰かに見つかる。

通うのは公立高校だから、支援金を受けられるなら授業料は賄えるとはいえ、別所で出費はあるし、なにより雨香は一人暮らしを始める。

仕送りが全くないことはないだろうけれど、雨香の家庭の場合はそうとも言い切れなくて、念のために尋ねておく。


「家賃とかそういうのは払ってもらえるんだよな?」

「それはお願いしてあるから大丈夫。でも、きっちり計算して振り込むって言ってたから、やっぱり少しは自分でお金作らなきゃいけないかなって」


きっちりかっちりを想像すると嫌でも息が詰まる。高校よりも先のことを見据えると、アルバイトにたどり着くのも理解ができた。

お母さんの働いているスーパーなら、夕方から閉店までの求人がたまに出ているけれど、そこを勧めていいのかわからない。


難しい顔で考え込む雨香を家に招き入れると、玄関に突っ立ったまま不安げに僕を見上げる。急に緊張の糸が張ったのか、表情が固くなる様を見て、昔の面影を感じた。


「お母さん!」

「っ、まって、海吏」


廊下の奥に向かって呼びかけると、普段なら『用があるなら自分から来なさい』と言うくせに、あっさりと顔を覗かせた。

僕の背中が視線を遮っていることに気が付いて壁に素早く避けると、お母さんは目を真ん丸くして、手に持っていたフライ返しを床に落とした。