目覚めるなら、優しい朝の日差しか、小鳥のさえずりなんかで起きたいもんだ。
 なんの予定もない、日曜日の朝には。
 なのに案の定、窓の外から聞こえてくる、大音量の音楽で起こされた。
 もう既にお馴染みの、となりに住む幼馴染・ゆずきの「失恋プレイリスト」に。

「おい。 朝っぱらから、近所迷惑だぞ」
 眠い目をこすりながら窓を開け、向かいに見えるゆずきの部屋へ苦情をぶつける。
 けれど返事は返ってこない。窓を閉じていても音漏れするほどのボリュームで失恋ソングを流し続けているうえに、それに合わせて調子っぱずれな音程で熱唱するゆずきには、俺の言葉なんて到底耳に入ってこないのだろう。

 ゆずきは昨日、失恋をした。
 相手はサッカー部の副キャプテン。高校に入って、七人目の彼氏。
 そのニュースは、瞬く間に同級生の間で広まった。カメレオン・ガールがまたしてもハートブレイクしたと。そして予想通り、今朝の俺はゆずきの恒例の儀式で起こされたというワケだ。

「おい! 少しボリューム下げろ、このバカ」
 俺は読み終えた週刊チョップを、ゆずきの部屋の窓に向かって投げつける。バサリと大きな音を立て、屋根に落ちる週刊チョップ。悪いな。おまえには何の罪もないのに。
「……なにすんのよ、この野蛮人」
 ゆるゆると窓が開き、亡霊のような姿のゆずきが恨めしそうに顔を出した。
「うわっ。なんだおまえ、めっちゃ不細工だぞ。鏡見ろ、鏡」
 ぼさぼさの髪、ヨレヨレのTシャツ、腫れあがったまぶたのせいで超絶細目になっている上に、顔全体もむくみまくっている。
 フラれ癖がついているとはいえ、付き合う男がほぼ切れたことのないゆずきは、そこそこ可愛い顔をしているんだが、今目の前にいる失恋したての彼女は、泣きはらしたであろう一夜を想像させるひどい有様だった。ま、これもいつものことではあったけれど。
「うるさいわね! 不細工だからフラれたっていうの? ほっといてよ!!」
 そう言って、ゆずきは顔をくしゃくしゃにして号泣しはじめた。ああ、まったくもって面倒くさい。
「こんなものっ! もう見たくもないっ! これもっ! これもっ!!」
 泣きながら、ゆずきは段ボールにあれこれ詰め込んでいく。これも毎度おなじみの光景だ。
 今回段ボール行きになっているのは、Jリーグチームの応援グッズ。チームカラーの黄色いユニフォームやタオル、メガホン、キャップetcが箱の中に消えていく。