「ティム、なんでこんなこともできないんだ!」
「ひくっ、ひくっ、ごめん…なさい…。」
「泣いても無駄だぞ!」
「あらあら、あなたもそれぐらいにしてあげてくださいよ。ティムがかわいそうじゃないの。」
私は一体なんの為に生まれてきたのか、わからなかった。
いつも一人。
心を許せる人間はいなかった。
別に王子になりたくなかった。
なのに、何故か王子だった。
「今日は、このページから勉強しますよ。」
「この構えは、もう少し剣先を下げてください。」
「この間も同じ間違いをしましたよね。」
「一体いつになったら、できるようになるんですか!」
「マナーを覚えてください。」
段々、嫌になってくる。
疲れてくる。
もうダメかもしれない。
逃げたくなる。
ある日、メイドたちの話し声が聞こえた。
「昨日、休みだったから町に買い物に行ってきたの。」
「なに買ってきたの?」
「この髪飾り買ってきたの。」
「可愛いー!私も、今度新しいの買いに行こーと。」
楽しそうだ。
ところで、町とはどんなところなのだろう。
私も町に行ってみたい。
「町に行ってみたいです。」
「ティム殿下、国王陛下の許可を取ってからではないといけません。」
「では、許可を取ってください。」
「かしこまりました。お伺いを立ててみます。」
「ティム殿下、国王陛下から許可が出ました。」
やったー!!
どんなところなのだろう?楽しみだ!
「しかし、町に行くには準備が必要なので明日までお待ちください。」
「分かりました。」
次の日。
ワクワク!やっと朝になった!待ち遠しくて、あまり眠れなかった!
「ティム殿下、それでは参りますよ。」
近衛兵が護衛してくれた。
「えっ!?もしかして、ティム殿下じゃないの?」
「町に何しに来たんだ?」
「近くで見るの初めてー!」
「小さくて可愛いー!!」
町の人たちの声が聞こえてくる。
町に来るだけでこんなにも注目されるのか。
なんだか、恥ずかしくなる。
やっぱり、私はこの国の王子なんだ。
贅沢ができるのも、国民が税金を払ってくれているからだ。
だから、どんな嫌なことがあっても逃げてはいけないんだ。
勉強から逃げてはいけない。
剣の稽古から逃げてはいけない。
礼儀作法の教育から逃げてはいけない。
「ティム、町に行ってみてどうじゃった?」
「はい!町の色んな店に行ってみて楽しかったです。町の人たちは、みんな明るくて元気でいい人ばかりでした。」
「そうか。それは、良かったな!」
「はい!それでは、失礼します。」
本当は町の人たちに注目されて、王子として気を引きしめなきゃと思い、精神的に疲れてしまっていた。
その日は、すぐに寝てしまった。
「早く…てください…ティム…殿下…
ティム殿下、早く起きてください!!!」
「はっ!!」
「やっと起きられましたか!今日は、婚約者のサンドウィッチ侯爵令嬢とお会いする日ですよ!早く着替えて準備してください!」
「久しぶりだね。元気にしてた?」
「はい!ティム殿下もご機嫌いかがでしたか?」
「ありがとう。私も元気にしてたよ。」
「ところで、昨日は町に行かれたそうですね。」
「ああ、町と言うのはどういうところなのか気になってね。」
「行ってみてどうでしたか?」
「新鮮だったよ。町の人たちと関わりを持つことができて良かったよ。みんな、明るくていい人ばかりだったよ。」
「そうですか!それは良かったですね!」
「そうだ!エマ嬢にプレゼントがあるんだ!」
「わあ!ありがとうございます!!嬉しいです!!」
「はい、どうぞ!開けてみてよ。」
包装した箱を開けると、中からはアメジスト色をした蝶のデザインの髪飾りが出てきた。
「可愛いーー!!!ありがとうございます!!!凄く嬉しいです!!!」
「今、町で評判のアクセサリーショップで買ってきたんだ!だけど、まさかこんなにも喜んでもらえるとは思わなかったよ!」
「髪飾りその物も嬉しいのですが、なによりも私のためにティム殿下が町に行って、お店で商品を選んで買ってくれたということが嬉しいのです!」
「そんなこと言われると、照れるなぁ。」
ティムとエマの二人は、少しの間の穏やかなひとときを過ごした。
その後、エマは王妃になるためにどんなに厳しい教育でも頑張った。
しかし、ティムの方は周りからのプレッシャーと王になるための厳しい教育に耐えられず、学園に入ってから出会った、ティムに優しく甘い言葉をささやく令嬢にうつつを抜かして、婚約者のエマを裏切ることになる。