翌日、学園にて。
「あー、昨日はうるさくて勉強に集中できなかったな……。」
ティムは愚痴をこぼした。
「なんか不機嫌ですね……。何かあったんですか?」
従者が尋ねてきた。
「それがな……」ドンッ!!!
ティムは後ろから突き飛ばされた。
「痛てて……。一体、なんだ!?」
ティムは自分の体をさすりながら言った。
見ると、従者を沢山の令嬢達が取り囲んでいた。
「調理実習でクッキー作ったんです。良かったら、食べてください。」
「私のも良かったら食べてください。」
「私のもどうぞ!!」
「良かったら、食べてください!!」
従者は戸惑いつつも、令嬢達からのクッキーを受け取っていた。


ティムは従者を睨み付けたが気づいていないようだった。
「あいつ、昔っからモテたよなぁ……。面白くなぁ……。」
ティムの従者は、令嬢達には親切で優しいので昔からモテていた。
しかも、婚約者もまだいないので大勢の令嬢達から狙われていた。
「悲しすぎる……!!!」
ティムは思わず心の声が漏れてしまった。
「ティム殿下!!悲しいだなんて、どうしたのですか??」
「えっ!?」
振り向くと、そこにはティムの婚約者のサンドウィッチ侯爵令嬢がいた。
「何か辛いことでもあったのですか!?私でよければ、相談に乗らせていただきますわ!!」
「エマ嬢!?……いや、何でもないよ。気にしないで!それより、どうしたの?」
「実は、調理実習でクッキーを作りましたの。ティム殿下の口に合うか分からないのですが、良かったらお召し上がりくださいませ。」
パァーーーー!!!
ティムにはサンドウィッチ侯爵令嬢の周りが光輝いて見えた。
「女神だ……!!」
「えっ!?大丈夫ですか!?ティム殿下!?やっぱり、病み上がりで体調が優れないのでは!?」
サンドウィッチ侯爵令嬢が本気で心配してくれている。
「心配しないで!!全然大丈夫だから!!今、人生で一番体調良いから!!」
「それなら、良いのですが……。クッキー、受け取ってくださいますか?」
「もちろん!!!全力で受け取らせていただきます!!」
ティムは即答した。
「良かった!!受け取ってくれなかったら、どうしようかと思っていましたわ!!」
「そんな、エマ嬢のクッキーを受け取らないだなんて、ありえないよ!!よろこんで頂くよ!!ありがとう!!」
「そんな……、照れますわ……。それでは、失礼いたしますわ。」
そう言って、サンドウィッチ侯爵令嬢は去っていった。




「やったー!!エマ嬢からクッキー貰ったぞ!!これだけで、もう私は満足だ!!」
ティムはスキップしながら歩いていると、ハンプトン子爵令嬢が真剣な表情でクッキーが入った袋を握りしめているのを目撃した。
「どうしたんだろう?あんな真剣な顔をして?」
ハンプトン子爵令嬢がずっと見ている方を見ると、そこにはハンプトン子爵令嬢の元婚約者がいた。
ハンプトン子爵令嬢は何か決意をしたようで、元婚約者の方へ歩いていった。
もう少しのところでハンプトン子爵令嬢の元婚約者の前に一人の令嬢が現れた。
その令嬢はハンプトン子爵令嬢の元婚約者にクッキーを渡していた。
そして、ハンプトン子爵令嬢の元婚約者もクッキーを受け取り仲良く談笑しているようだった。


ハンプトン子爵令嬢は足が止まり、うつむいた。
しばらくしてハンプトン子爵令嬢が引き返していると、何人かの令嬢達が現れた。
「先ほどの件、私達拝見していましたわ。おかわいそうに……。元婚約者と何とか仲直りしたかったようですが、もう別の令嬢と仲良くなっているではありませんか!
残念でしたわね!!これも、私達の婚約者に色目使ったりするから、こんなことになるのよ!!良い気味だわ!!!」
「!?何を言っているの!?私、何もしてないわ!!何か勘違いしてるんじゃないの!?」
「嘘つかないで!!!あなた、自分がちょっと可愛いからって調子乗ってるでしょ!!!」
「そんなことないわ!!」
「嘘だわ!!自分のこと可愛いって思ってるでしょ!?」
「思ってないわよ!!」
「嘘おっしゃい!!!」




うわーー!!なんか、喧嘩してるよ!!
ハンプトン子爵令嬢をよってたかって、虐めてるよ!!
これ、絶対助けにいかなあかんやつやーー!!
「「おい!!!何をやっているんだ!!!」」
「「ティム殿下!?」」
「「何をやっていると聞いているんだ!!」」
「わ、私達はただハンプトン子爵令嬢とお喋りしていただけですわ。」
「「そんなはずないだろう!!ハンプトン子爵令嬢が、怯えているじゃないか!!!」」
「そんなことないですわ!ねえ、ハンプトン子爵令嬢?」
「……。」
「ちょっと、体調が悪くて喋れないのかし「「失せろっ!!!!」」
令嬢達は、ビビって逃げていった。
「大丈夫か?」
「……ありがとうございます。」
ハンプトン子爵令嬢は、泣いていた。