――知ってる? この花の名前。変わった名前がついてるんだって。
 ――名前?
 ――そう。なんだっけ、なんかの神様の絵筆なんだって。

 声が聞こえた。外からではなく、体の中からぽこりと湧いてくるような声が。
「……また夢か」
 目をこすりながら私はベッドから起き上がった。最近、やたらに花とかお寺とかスイーツの出てくる夢を頻繁に見る。
 原因は分かっている。多分、これから到来する学校の行事のために、最近調べものをしているせいだ。
 のそのそと起き上がって淡いブルーのYシャツを着て、七分袖に腕まくり。濃紺にブルーのチェック柄が入ったプリーツスカートを履く。自分の部屋を出て洗面台に行って顔を洗い、コンタクトを付け身支度を整えてから部屋に戻ると、スマホにメッセージの通知を知らせる光が点滅していた。
『今日で大詰めだね! 一緒に頑張ろ』これは学級委員長の牧田明美(あけみ)さんから。
「と……もう一通?」
 着信していたメッセージはまたもう一つ、別の人から来ていた。
『また今日、学校で』
 相変わらず、なんだかんだマメだ。私は天井を仰いで紺色の通学鞄を引っ提げ、学校に向かった。

 今月から始めた硝子館でのバイトとスーパーのレジ打ちバイト、それから学校生活に家の家事の手伝いにと日々を繰り返して数週間。ちょっとばかりの非日常になんだか慣れてしまった自分が怖い。
 そんな中でも学校は平穏な通常運転で、今の私の頭を強いて悩ませているものといえば――校外学習だった。
 我ながら、随分平和な悩みだとは思う。が。
「ああ、めんどくさい……」
「めんどくさいけど、こうして調べるのも勉強のうちだよ」
 高校での授業過程の一環、午後の『総合的な学習の時間』の授業中。ルーズリーフを前にぶつくさ言っていると、左隣から聞きなれた爽やかな声がした。私はその声の主を横目で睨むだけにとどめ、大きなため息をつく。
「蒼井くんも、桐生さんに丸投げしないでちゃんとやるの」
「うう、さすが牧田さん……」
 右隣から援護が来て、私はありがたい応援にしみじみと手を合わせる。牧田さんはその綺麗な黒髪をなびかせて、私が積んでいた資料本を蒼井くんの机にどさりと置いた。
「いやー、さすが委員長がいる班だとサクサク進むな」
「ありがたやありがたや」
 目の前で私同様、牧田さんに対して拝む姿勢を見せているのはクラスメイトの山下くんと朝倉くんだ。
「とにかく! 今日中に課題仕上げて、この班のルートも提出しちゃいましょ」