第12話  沿線巡検

渋沢温泉・ホテル伊藤。

ホテル伊東は、渋沢温泉で一番大きなホテルだ。

本館と新館。

両館の間に温泉施設がある。

麓の沼川市からは、榛名山の中腹に山岳都市みたいに見える地域が渋沢温泉街。

逆に、渋沢温泉からは夜になると麓の沼川市の夜景が綺麗に見える。

佐々山電鉄応援団は、前日に群馬県の県庁所在地である前橋市でRRMS説明会に参加。

なりゆきで、沼川市コミニュティーバスの危機を救うため巡検を急遽行う事になってしまう。

インスタントハッピーカンパニーの面々とホテル伊藤の会議室で資料作りをしている。

 第1班から第3班まで、三つのグループに分かれ机を寄せて島として作業。

第1班が、雨宮京子率いる実際にコミニュティーバスに乗車して問題点を抽出するグループ。

第2班は、本来のRRMS説明会と連動している実験線建設現地視察をするグループ。

第3班は、佐々山電鉄応援団が主体で沼川本町駅前商店街や佐々電の施設を巡るグループ。

ノートパソコンで資料作成をする者。

お菓子を食べながら討議をしている者。

様々だ。

 インスタント・ハッピー・カンパニーは優を含めて各個人が、何かしらの才能や特技を持っている専門家であり、各分野の天才と称される人材。

 一応はチーム分けされているが各自の能力を発揮する仕事をしている。

 第3班のテーブルは、主に優がパソコンを叩き、隣で美佳が欠伸をしているだけになる。

「ふわぁぁ。もう午前0時を過ぎたな」

美佳は会議室の時計を見てつぶやく。

 愛理は「優ちゃん。なにか手伝うことある」

「ありがとう。じゃあ悪いけど出来た資料を30部コピーしてきて」

 その指示を聞いていた雨宮京子が
「優さん。50部。参加者定員は30人だけど本部提出とマスコミ関係配布をプラスして」

「えっ。50部でしたか?」と確認をして「ゴメン。愛理。50部だって」

「了解。愛理達は手伝いくらいしか出来ないからね」

プリントアウトした紙の束を集める。

美佳は、部屋の隅にある仮眠スペースでギャピーを抱きしめて寝ている神戸みのりを見た。

「アイツ。ガキかよ。ヌイグルミとか人形を抱かないと寝られないのか?」

西村が「まだ中学生だもの。美佳ちゃんは少し年下の子に優しくしてあげないと」と笑う。

「アイツ。良いのかな?今まで受験勉強で活動に参加しなかったのに」

長谷川が「さっき聞いた。推薦で渋沢実業に入るらしいぞ。佐藤と鈴木の後輩になるそうだ」

「えー。嘘だよ。みのりの母ちゃん。凄い教育ママだよ。最低でも沼女とか言っていたよ」

「なんでも、鈴木がインスタントハッピーカンパニーだろ。鈴木と活動すれば的な?」

「うわぁ。やっぱり腹黒親子だ。ウチの娘も天才集団に入れるかもって皮算用なの?」

 午前1時になった段階で、どこからともなくヘンなメロディが流れてきた。

南原が余暇で制作した目覚まし時計から流れている。

蛍の光をポップ調にしたメロディで、やたら音量が大きくて五月蠅い。

雨宮京子が、時計の上のスイッチを押して止めた。

「はい。仮眠時間です。作業中のメンバーも切りの良い場所で一旦終了してください」

メンバーは「もう少しで終わるのに」と、まるで学校の試験終了合図後みたいな台詞を言う。

インスタントハッピーカンパニーは企業。未成年者の最低睡眠時間確保が社内規則にある。

「明日・・・・・・いや、もう今日か。えーと四時間仮眠は厳守です。作業続行厳禁」

 美佳は、興味津々で南原智子が制作した目覚まし時計に近寄る。

「これ目覚まし時計?」

美佳の問いに、南原智子は「逆だね。睡眠時間を知らせる時計。おやすみ時計」

「意味が解らない」

「ボタンを押して15分以内に寝ないと本部に自動通報されて、翌日に監督者が怒られる」

緊急時でも最低4時間は、睡眠時間を摂取する規則があるそうだ。

「うわぁ、それでも4時間か。充分に法律違反な気がする」と美佳は眠そうに目を擦った。

愛理が、コピーを取り終わり用紙の束を両手で抱えて戻ってきた。

「おう愛理。寝る時間だとさ。アタシの部屋で仮眠しよう。雑魚寝だけどね」

「徹夜じゃないの?助かるけど。みのりちゃん寝ているね。可愛そうだけど起こす?」

「あー。此処で寝かす訳にはいかないからね。一人で寝やがって」と美佳は言う。

「美佳ちゃん。お姉さんだから年下の子の面倒みなさい」と母親みたいな事を
愛理が言った。

 いつもの美佳なら、怒って愛理に猛反撃する筈だが予想外に笑顔になる。

「アタシは一人っ子だから、お姉さんだから我慢しなさいって言われるのに憧れていた」

西村は「はぁ?アタシの家は妹弟が多くてアタシが長女。嫌で仕方なかったよ」

「憧れって、自分の都合の良い妄想が入るからね。実際は、みのりみたいな妹が現実かも」

西村は、「アタシが背負うよ。ダテに自衛隊で訓練はしていない。災害派遣の練習にもなる」

そういうと寝ているみのりに毛布を掛けて背中で背負った。まるで母親みたいだ。

天才集団インスタントハッピーカンパニーは。仕事も遊びも規則も切り替えが早い。

ホチキスで資料を閉じようとしていた佐々山電鉄応援団メンバーにも作業中止の命令が下る。

パソコンの電源を落として、メイド服の女子達は各自がホテルの自分の部屋に戻っていく。

応援団の女子達も、優と長谷川に「おやすみ」と言いながら会議室を出ていった。

 南原知子は「悪い。男子二人。部屋を取ってやりたいが急遽決まった作業ゆえ。4時間程度だ。そこの仮眠スペースで休んでくれ」と詫びる。

 優は慣れている。

長谷川は「自衛隊の野営訓練よりは屋根もあるし、空調もある。余裕でOKだ」

 わずか数分で、ザワザワしていた会議室が嘘みたいに静まりかえる。

「寝るか」と長谷川は会議室の奥にあるパーテーションで囲まれた仮眠スペースに行く。

「はい」と思わず同い年の長谷川に返事をしてしまう。

「鈴木。タメだろ。気をつかうなよ」と言い簡易ベッドに横たわる。

「確かに、野営よりはマシだな」と毛布を掛けると「おやすみ」と言い寝息を立てて寝てしまう。

優は、なかなか眠れない。

美佳が、第3班のリーダーだが、今回は優が指揮を執ることになるだろう。

説明会の時に、喧嘩を売ってきた大学生三人組は、揚げ足をとるように厳しい指摘をする筈。

行程や資料に沿った説明など、目を閉じて何度も反復する。

3班のテーマは、【佐々山電鉄の施設見学と沼川本町駅前商店街活性化】

佐々電の施設見学は、美佳が提案した【(仮称)ささでん電車まつり】という企画と連動。

神林社長や労働組合への打診も済ませてある。

行政側は、沼川市にぎわい課への参加打診も万全。

急遽、決まった話なのに、にぎわい課の課長は逆に「ありがとうございます」と喜んでいた。

 沼川市にぎわい課は、佐々山電鉄応援団が借りている沼川無料カフェを管理している部署。

日曜日だけど、課長さんが休日返上で説明役をしてくれる。

地方自治体は、お役所仕事の充て職の職員も居れば逆に、市民と協働できる職員も居る。

課長さんの話から推測すると、沼川本町駅前商店街は複雑な事情を持つシャッター街。

 駅前商店街は一般的なシャッター通りとは異なり、単純に買い物客が居ないから閉めている訳では無い。

15店舗ある中で、営業しているのが3店舗。

残り12店舗は全て異なる理由で店を閉めている。

一般的に言われる郊外化・大型店の進出、人の動線の変化という話だけが原因ではない。

まず、駅前のコンビニは、オーナー店舗で本部ノルマ達成が出来ない理由で閉店。

4店舗は、店主の高齢化で後継者が居ない。

商売は続けたいが仕方なく店を閉めた。

3店舗は、既に店を継続する気は全く無く、店舗を兼ねた住宅で暮らしている高齢者夫妻。

3店舗は、相続問題。店を壊し駐車場化を考えて居る。他の地域で暮らしている若い家族。

しかし、建物を壊し店舗を住宅として増床する資金も無いので放置している。

最期の店舗は余所者に商店街を荒らされたくないと活性化を反対。現存維持を希望。

 よく研究者や評論家がテンプレートに無理矢理当てはめて、○○が原因で衰退したという単純な物ではなく、商店街の衰退理由は複雑かつ難しいらしい。

それらは、本職の沼川市役所にぎわい課ですら難儀して前に進めない課題。

平日だけは、沼川本町商店街は沼川女子高校と沼川工業高校の通学する生徒で賑わう商店街。

優は、長谷川と愛理から「駅から学校までパンや弁当を買う店が無い」という意見を聞いた。

 それが、ヒントになると考えて居るのだがアイデアが思いつかない。

仮眠時間手前まで悩んでいた。

優は消化不良のままで仮眠時間に入ったのだ。

「うわぁ。なんか気になって眠れない」