第10話  みんなで楽しむ市民活動を経験する佐藤美佳

 優が、沼川西地区の集会に参加している同日。

少しだけ時間がさかのぼる。

午後5時の前橋市の中心市街地を歩く美佳。

「ふんふんふん・・・・・・」

美佳は、市松人形ロボのギャピーを小脇に抱え鼻歌を歌いながら上毛電鉄の中央前橋駅に向かっている。

神林によると意図的に、美佳が拾得するように仕組まれた可能性もあるという。

優の従姉妹でドールコレクターの愛理が、美佳のギャピーを西洋風のドレスを着せて、金髪の縦ロールウィッグを被せてしまった。

JR前橋駅から続く国道50号線の横断歩道を渡り交通量の多い通りを進む。

前橋市の計画では此処にLRTという次世代路面電車が走る青写真がある。

「ほう。確かにJR前橋駅と上毛電鉄の駅は離れていて不便だな」ギャピーがつぶやく。

実は、群馬県前橋市もLRT計画があり市長もRRMSに興味を示している。

普通なら、JR沼川駅から国越線の電車で新前橋駅から乗り換えをしてJR両毛線で桐生駅というルートが一般的だが美佳は、あえて沼川駅前から路線バスで前橋市街地に入り、両毛線と併走するローカル私鉄・上毛電鉄で桐生市に向かう事にした。

 美佳なりに、群馬県で頑張る地方私鉄に乗ることでヒントを得ようとしていた。

前橋市の繁華街を抜けて広瀬川の川面を見るようにガラス張りの綺麗な駅舎。

美佳は、学校帰りで直接桐生市に向かうので制服姿。

「西桐生まではいくらかな?領収書を貰うように言われたけど?何処で貰えるのかな」

窓口に相談すると発売証明書を発行してくれるというので問題解決。

駅舎の待合スペースには、上毛電鉄のグッズが並べられている。

美佳は参考になるとメモを取る。

有人改札を抜けると行き止まり式ホームに2両編成のステンレス電車が停車している。

佐々電と同様に、東京で活躍していた中古車両を改造した通勤タイプの電車。

この電車で、約45分掛けて西桐生駅に向かう。

前橋市内の各高校に通う生徒達に混じって乗る。

美佳がホームから客室に入ると、一瞬だが乗客の視線が美佳の抱える市松人形に集中する。

美佳は座席に座ると荷物を床に置き、ギャピーを隣に鎮座させた

JR前橋駅からの路面電車型の連絡用の路線バスが到着して乗客が増えた。

 ギャピーは「美佳。混んできたぞ。ギャピーは美佳の膝の上に座る」と言いだす。

「そうだな。一人でも多くの人が座れた方が良いね。おいでギャピー」と美佳が手招きする。

 ギャピーは、地上から一メートルくらいは自分で浮遊できる筈だ。しかし飛ばない。

「よいしょ。よいしょ」と可愛らしく美佳の制服に手を掛けてよじ登ろうとしている。

 当然ながら車内の高校生達は、自力で動く市松人形の行動に驚きを隠せない。

学習機能を持つAI搭載のギャピーは無駄に学習している。

わざとらしく美佳の制服を離して、するっと落ちる。座席にポワンと着地するギャピー。

可愛らしくテへっと舌をだした。

怖いと忌み嫌われ、恐怖のイメージが濃い筈の市松人形。

ギャピーは、嫌われ者だった自分を可愛く見せるコツをマスターしつつある。

「カワイイ」「ロボットだ。カッコイイ」

数人の女子グループが携帯電話を片手に美佳の周りに集まり出す。

「何処に売っているの?」「衣装は手作りっぽい」「見かけない制服。何処の高校?」

美佳は「渋沢実業。佐藤美佳。こいつは市松ロボのギャピー。正式にはギャッピ市松」

「ガッツ市松?」

「ちがうよ。ギャッピ市松」

女子達は「面倒くさい。ギャピーちゃんで良いよね。触って良い?」

「ほい。どうぞ」と美佳が差し出すと、女子高生達はギャピーの頭を撫でたりしている。

「佐藤さんも可愛いね。制服凄く良いよ」

美佳は、既にミニスカートの制服に抵抗はない。

新しい制服も来週届くが改造を思案中。

普通なら激怒するだろう美佳の母親は、逆に服装に無頓着な美佳が目覚めたと喜んでいる。

上毛電鉄は、単線なので西桐生から到着した電車を待って発車する。

乗客減少で、上下分離方式という補助金を貰わないと経営が厳しい上毛電鉄。

予想よりも乗客が多い気がした。通勤客や観光客が少ない上毛電鉄は学生が一番の乗客だ。

上毛電鉄友の会というファンクラブや有識者を交えた鉄道活性化会議もある。

美佳にとって、優みたいな難しい事は出来なくても瀬戸際で頑張る他社線の調査は出来る。

電車は、発車して前橋市の近郊住宅地を抜けると、車窓には裾野の長い赤城山が見える。

ガタンゴトン。車体を揺らしながら走る。こまめに駅員の居ない無人駅に停車する。

後部車両には数台だけど自転車を電車に載せている生徒もいる。

車庫のある大胡駅では、昭和3年の古いチョコレート色の電車も居た。

何処の会社にも、イベント時には目玉商品の電車はあるが、佐々電には無い。

美佳がメモを取っている間、高校生達がギャピーの撮影に夢中だ。

不気味、怖いと嫌われる市松人形のギャピーは、此処では可愛いロボットとして大人気だ。

「ギャピーちゃん。こっち向いて」

「ロボだって。ハイテクだよね」

他の高校生達も下車前に、美佳に声を掛けて撮影したりギャピーに声を掛けたりする。

「バイバイ。ギャピーちゃん」

ギャピーは、別れ際にハイタッチをする。

 別の女子高生達は、美佳と会話している。

「美佳。彼氏いるの?」

知り合って間も無いのに呼び捨てにされる。

「ほい?居るよ。今日は雨宮京子と一緒に会議に出るはずだよ」

「雨宮京子。あの有名な天才美少女中学生でしょ。インスタントハッピーカンパニー」

女子高生達は興奮して「美佳。雨宮京子と友達なの?あと彼氏の写真も見たい。見せて」

美佳は携帯電話で雨宮京子の画像を見せたが、写真を撮られるのが嫌いな優の写真はない。

「悪い。優は写真が嫌いだから。無いな」

女子高生達は「駄目だよ。彼氏を大事に市内と雨宮京子に彼を取られちゃうぞ」

美佳は「あー。アタシは恋愛とか興味無かったし、束縛も嫌だけど優は取られたくないな」

「いや。取られたくないって気持ちがラブラブな証拠だよ。美佳。電話しなよ」

 美佳は、優ではなく雨宮京子に電話をした。

「ほい。アタシ美佳。京子。悪いが内緒で優の写真を撮影してアタシに転送してくれ」

(えー。なんで?)

「いいから。アイツ写真を撮るって最初に言うと逃げるから、内緒で一枚」

(いいけど。盗撮じゃないの?)

「いま上毛電鉄の車内で知り合った女の子達が優を見たいっていうから」

(良いけど)

 電話を切ると、暫くしてキンコンとチャイムが鳴り美佳の携帯に写真が送られてきた。

 しかし、メイド服を着せられた優の写真。美佳は携帯電話を片手にフリーズした。

何故か、メイド服姿で真っ赤な路線バスの前に屈む優の写真だった。