いつもどおりの朝。授業開始ベルの三十分くらい前に部室の引き戸を開く。
 部屋の奥の机には私の親友で天才美少女の真行寺(しんぎょうじ)ノドカがちょこんと座り、ヘッドホンで両耳を塞いだまま大きな液晶ディスプレイに向かって、キーボードをカタカタと鳴らしていた。

 二学期が始まって、二週間くらいが経った。
 平和で微笑ましい毎朝の光景。ウェーブの掛かった栗色の髪。それを背後から照らすブラインド越しの柔らかな日差し。後光がノドカの輪郭を浮き上がらせている。
 私――西野(にしの)未央(みお)は、親友の天使っぷりに、ついつい見惚れてしまう。そして、その容姿の可憐さと、カタカタカタカタと激しく動く高校生離れした両手のタイピング速度との間には恐るべきギャップが存在している。――おぅふ。一般論曰く、残念系美少女!

「おっはよー! ノドカ!」
「あ、未央(みお)。おはにゃちわダヨ〜!」

 (なぞ)い挨拶。入ってきた私に気付くと、ノドカはヘッドホンを外して、花のような笑顔を浮かべた。
 朝からこうやって部室を覗くのは、一学期の間に出来上がった習慣。私とノドカと幹哉くんの一年生三人だけのIT部。ここは、私たちの秘密基地(シークレット・ベース)なのだ。
 ちなみに三人目の木之瀬(きのせ)幹哉(みきや)くんは、私の幼馴染で、美男子。ノドカは幹哉くんに片思いしている。実は私も幹哉くんのこと好きだから、部活の中でなんとも綺麗な三角関係。ちなみに、基本、ノドカは幹哉くんのストーカーなので、油断ならない。一学期はそのせいで色々事件もあったしね〜。――まぁ、それを幹哉くんも許している節があるから、困っちゃうんだけどね。

「わぁ、涼しい〜。さすがIT部室! スバラッ!」
「エヘヘ〜。IT部室は冷暖房完備が売りじゃからのう〜。未央に喜んでもらえて幸いじゃ〜」

 肩にヘッドホンを掛けながら、イェイとピースサインを作る親友。