永瀬桃がその日の作業を終え、店の奥まったところにある小さな机に落ち着いて三十分ほど経った頃、入り口のドアベルが鳴り、「こんにちはー」と快活な声がした。出てみると、そこに立っていたのは日に焼けた青年で、彼は朗らかな笑顔で挨拶をした。

「池田といいます、初めまして」

「初めまして。宮本章です。店主の孫で、今、店の片付けを」

「山田さんから聞いています。敏夫さんにすごくお世話になったので、手伝わせてください。ここのキッチンで不定期にカフェをやらせてもらっていました」

「もしかして、棚のコーヒー……」

「僕のです」

「ごめん、てっきり祖父のかと。飲んでしまった」

「いいっすよ、別に。こちらこそ、コーヒー豆だけじゃなくて道具や食器、置きっぱなしにしてすみませんでした」

 次にやって来たのは菊の花束を抱えた中年女性で、すぐに菅沼さんだとわかった。近所に住む五十代の主婦で、ばあちゃんが亡くなってしばらくしてからずっと、庭の手入れをしてくれていたのだという。どうりできれいな状態に保たれていたはずだ。

「祖父が生前お世話になり、ありがとうございました」

「お礼を言うのはこちらの方よ。庭仕事の合間に、敏夫さんだけじゃなく池田君や桃ちゃんとおしゃべりして、毎日楽しく過ごさせてもらったの。章君……でいいのかしら」

「はい」

「お願いがあるの。敏夫さんにお線香をあげたいのだけど。多分、他にもたくさん来ると思うから、遺影とお線香、レジカウンターに置いてもらうことはできないかしら」